がんを経験された患者さんに、病気がわかったきっかけや治療をしながらの生活、感じたことなど「生」の声をお聞きする人気連載。今回ご登場いただくのはファイナンシャルプランナー(以下FP)として幅広く活躍されている黒田尚子さん。今年からMasselでも、がんとお金についての連載をお願いしています!今回は自らの体験を語っていただくスピンオフ企画。FPを目指すきっかけ、罹患されたときのこと、新たな活動などパワフルに話してくださいました。
プロフィール
黒田尚子さん(54歳) 千葉県
〔家族構成〕夫、娘と3人暮らし
〔がんの部位〕 乳がん
〔取材時の状況〕手術→ホルモン療法→乳房再建→乳頭再建→乳輪再建→経過観察中
28歳、世界一周の旅から帰国し思わぬ形で独立
来年から、がんとお金について連載させていただく黒田尚子です。私のがん治療体験についてお話しする前に、まずファイナンシャルプランナーになった経緯を少しお伝えさせてください。
私は1992年に日本総合研究所※に入社し、システムエンジニア(以下SE)として仕事をしていました。入社から4年目くらいのときでしょうか。システム系とは違う勉強がしたいと思って、FPの資格を取得しました。
もともと金融経済や運用に興味があったんです。でもその当時はFPで食べていこうとは考えてなくて、あくまでも自己啓発のつもりでした。スクールに3ヶ月くらい通ったんですけど、すごく楽しかった!証券会社や銀行の人、旅行会社の人など「FP取得」という目的を持った年代や属性が異なるいろんな人に出会えました。
※ シンクタンク・コンサルティング・ITソリューションの3つの機能を有する総合サービス企業
そうこうしているうちにSEの仕事も6年目、このまま会社にいてもどうなんだろう?と考えていた頃、子宮筋腫で手術することになったんです。忙しく仕事をしていた時期でもあったので「自分が休んだら仕事は回るんだろうか?」なんて思っていました。実際、仕事は私がいなくても問題もなく回るわけで、そのとき病院のベッドで「いま私から仕事を取ったら、何が残るんだろう」と考えました。会社を辞めたのはその1年後です。
自分を変えたい、リセットしたい、という思いから世界一周の旅に出ました。ハワイから入ってサンフランシスコ、ニューヨーク、スカンジナビア半島に飛んで北欧を回って、イタリア、ギリシャ…3〜4ヶ月くらいでしょうか。終盤はクタクタでした(笑)
帰国後はまたSEとして働こうと思っていましたが、何となく顔を出したFPの勉強会で、お世話になった先生から仕事をいただいて。その仕事を丁寧に続けるうちに、どんどん忙しくなりました。気づいたら就職活動する時間がなくて、じゃあこのままFPとしてやってみようかなと思ったのが28歳のとき。それが独立した年ということになります。
全摘出手術と再建手術、ホルモン療法の副作用
乳がんがわかったのは40歳のとき、市の健康診断でした。痛くもかゆくもなく、全く自覚がなかったんです。「これがしこりだよ」って教えてもらったんですけど、子どもを母乳で育てていたので乳腺がつまっているのかなと思っていました。告知を受けたときは目の前が真っ暗になると同時に、子どもの年齢を数えましたね。いま5歳だから5年後は10歳。それまで何ができるんだろう、って。
告知を受けたときはステージⅡBと言われましたが、その後の検査でⅡAと診断され、抗がん剤はせずに全摘手術を受けました。
全摘した際、エキスパンダー(組織拡張器)を入れました。子どもも小さかったし海や温泉にも行きたかったので、乳房の再建は私のなかでマストだったんです。その後エキスパンダーを取り出し、シリコンインプラント(人工乳房)を入れました。非常に綺麗な再建をしていただけたと思いますが、やはり人工物という感じで、動かない、冷たい、硬い。いまでも胸を触ると「ああ、自分はやっぱり乳がんなんだ」と感じますね。
全摘の後にホルモン療法を行なっています。リュープリン2年、タモキシフェン5年の予定でしたが、タモキシフェンが合わなくて。顔が真っ赤に腫れあがって、これはつらいと思って先生に相談し、結果リュープリンだけになりました。
ホルモン療法の影響だと思うんですけど、局部がすごく乾くんですよね。乾くし痛がゆい。婦人科で軟膏や内服薬を出してもらいました。メンタルも不安定になったり、胃腸炎にもなったり「なんとなく体調が悪い」がずっと続きました。ホルモン療法をやめて1年ぐらいして、生理が戻ってきたときは本当に嬉しかった!ホルモン、大事です。
術後1、2年目で顔色がすぐれない方を見ると、大変な気持ちがすごくよくわかります。もちろん個人差はありますが、「もうちょっとしたら落ち着きますよ」と心のなかで呼びかけています。
がんを経験して感じたこと、変わったこと
罹患して感じたのは告知前、検査の段階からお金がすごく出ていくということ。がんと診断されてからじゃないんですよね。正しい病名がわからないうちに「お金かかるのでその検査いりません」とも言えないし、医師からこの検査受けましょう、と言われたらわかりましたと言うしかないですよね。「カード払いがなかったら、一体いくらお金を持って病院へ行けばいいの?」と思いました。
自分ががんを経験して、FPの視点から患者さんをサポートする活動を始めました。がんの告知を受けた翌年に、キャンサーネットジャパンの乳がん体験者コーディネーターの認定を受け、ピアサポート活動にも参加しました。
いまは隔週で「おさいふリング」という活動を聖路加国際病院で行なっています。がんの治療とお金に、この先の人生プランを考える会ですが、AYA世代からご年配の方まで、さまざまな年代の方にご参加いただいています。これから治療の方もいれば、治療後10年以上経っている方もいる。その時々でお金の悩みや聞きたいこと、使える制度は変わってくるんです。自分の体験とFPの知識をもとに、いっしょに考えていけたらと思います。
がんになる前と変わったことは、身体の声を聞くことでしょうか。
仕事も忙しいし、子育ても大変だし、ちょっと体調悪くても寝てられないから無理しがち。年齢を重ねると大変なことも増えてきますよね。そんなとき、軽いときに芽を摘むというか「何か変だな」と思ったら、それは身体からのサインだと思って見逃さないこと。今も気づけば無理しがちなんだけど、ちょっとしんどいな、と思ったら、いろいろやらなきゃいけないことはあってもお母さんの営業を終了して休むようにしています(笑)
黒田尚子さんによる「わかりやすい がんとお金・使える制度(タイトル仮)」は、もうすぐスタートします。
どうぞご期待ください!
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