がんの治療によってお口の中に起こることと、そのケアについて歯科医師の先生に教えていただく連載。毎回、多くの反響をいただいています。今回はいよいよ最終回。食欲が低下してしまったとき、どうすれば栄養が効率的に摂れるか、そしてまわりの家族はどのようにフォローするのが望ましいか、プロの視点で教えていただきました。
第1回記事「がん治療の前に」はコチラ
第2回記事「抗がん剤副作用の対処」はコチラ
第3回記事「味覚の変化」はコチラ
高橋なぎさ 先生
歯科医師
老年歯科医学会及び摂食嚥下リハビリテーション学会所属
NPO法人摂食介護支援プロジェクト研修修了
介護食士 健康咀嚼指導士 日本糖尿病協会登録歯科医
がん治療中の食欲低下は、なぜ起こるの?
これまで連載してきた第1回〜3回まで、がんの治療によってお口の中に起こることについてお伝えしてきました。
抗がん剤や放射線治療の影響により起こる味覚障害や口内炎、乾燥からくる食べづらさ以外にも、食欲が低下する原因はさまざまです。また、いくつかの原因が重なっていることもあります。
・発熱
・疝痛
・消化機能の低下
・がん悪液質 …など
・味覚障害
・口内炎
・乾燥
・下痢/便秘
・おう吐 …など
・不安やストレス
・嚥下(えんげ)障害
・逆流性食道炎/胃潰瘍
・入れ歯があわない、虫歯 …など
治療中の食欲低下は一時的なことも多く、いずれ食べられるようになることを覚えておきましょう。
食欲がないと、どうしても「身体のために栄養を」「しっかり食べなくては」「体重を減らしたくない」とがんばって食べようとしてしまいがちです。しかしそれがストレスになってしまうことも。いまは「食べられるものを食べたいときに」「食べられる量だけ」という考え方で、無理に食べようとしないことが大切です。
食欲がないときの栄養の摂り方
食欲がないとき、どうやって栄養を摂ればいいですか?という相談を患者さんからよく受けます。昨年、スヴェンソンさんのピンクリボン月間チャリティイベントで管理栄養士の先生と対談をさせていただいたときにも出た話なのですが、本当に食べられないとき気にかけてほしいのは「水分」「カロリー」「たんぱく質」です。
その中でも治療中に食べやすいものと、食べにくいものがあります。比較的食べやすく、手に入りやすく、そして栄養が摂れるものを具体的に紹介していきますね。もちろん味の好みや食べやすさ(食べにくさ)は人それぞれですので、試しながらご自分にあうものを見つけてください。
【水分&栄養も摂れるもの】
●ジュース
水やお茶よりも野菜や果物のジュースの方が栄養素が豊富です。桃をすり潰したとろりとしたジュース(ネクター)は口内炎で口の中に痛みがある場合も飲みやすくオススメです。
●ポタージュ
コンソメなどさっぱりしたものより、とろりとした食感のポタージュ系を!生クリームやバターなどを使っているものは、そのぶんカロリーも高く栄養が摂れます。
もし、温かいものの匂いがダメな場合は、冷ましてから召し上がってみてください。
【カロリーが高め&食べやすいもの】
●アイスクリーム
容量に対してカロリーが多く摂れます。冷たさが気持ちいいと感じる場合と、冷たさが刺激となり痛みを感じる場合があるので注意しながら食べてください。
●ムース
口あたりよく、飲み込みやすいです。チョコやイチゴなどデザート系のムースなら、生クリームをプラスしてさらにカロリーアップ。また、トマトやにんじん、芋類を使った野菜系のムースなら栄養のサポートにもなります。
【たんぱく質を補えるもの】
●たんぱく質が多く含まれる食品
一般的な食品に比べ、たんぱく質が2〜3倍以上摂れる食品があるのをご存じですか?特殊な製法で栄養をぎゅっと凝縮して、効率良くたんぱく質(プロテイン)を摂れるので、スポーツをしたりカラダづくりをする方に人気ですが、もちろん治療中の患者さんにも心強い食べものです。普段の食生活に少しプラスして、無理なく栄養を摂りましょう。
■ギリシャヨーグルト パルテノ(森永乳業)
ギリシャ伝統の水切り製法で作られた濃厚でクリーミーなヨーグルト。プレーン、フレーバー、季節限定の味など種類も豊富で、毎日無理なく食べられます。砂糖不使用のものもあるので、味覚の変化で甘味が苦く感じてしまう方は、そちらを選びましょう。
https://partheno-gy.jp/product/
■ダノンオイコス(ダノン)
たんぱく質10g以上、脂肪ゼロの水切りヨーグルト。速効性と持続性、両方にすぐれた2種類のたんぱく質を含み、アスリートからも支持されています。たんぱく質(プロテイン)の含有量が18gと多い製品もあり、フレーバーと砂糖の有無が選べます。舌触りや、お住まいの生活圏で買いやすいものを選ぶと続けやすいですね。
https://www.danone.co.jp/oikos/
■セブンプレミアム 豆腐バー和風だし(セブン&アイグループ)
豆腐の美味しさがぎゅっと凝縮された、木綿豆腐の2倍のたんぱく質を含む豆腐バー。もっちりとした固めの木綿豆腐という感じですが、昆布と鰹の和風だしがしっかりときいています。スライスしてサラダに入れたり、そのままかじってもOK!植物性たんぱく質が手軽に摂れます。まだまだ馴染みがない方が多いかもしれませんが、コンビニやスーパーをチェックしてみてください。
※一部店舗により取り扱いがない場合があります。
https://7premium.jp/product/search/detail?id=8479
ピンクリボン月間チャリティイベント「ずっと使えてためになる 食と健康の豆知識」アーカイブはコチラ
食事を用意するご家族の方へ、お伝えしたいこと
がん患者さんご本人ではなく、ご家族が食事を用意するというパターンも多いのではないでしょうか。そのときに心がけてほしいのは「無理に食べさせない」こと。そして「食べられるものを優先する」こと。
食べられていた時期を知っているだけに、家族は心配でなんとか食べさせようとしてしまいます。けれど、できない(食べられない)ことではなく、できる(食べられる)ことに意識を向けてください。いまの状況で食べられるものを見つけてあげる、美味しく食べられたのなら「よかったね」と一緒に喜んであげる、その姿勢が大切です。
記事の前半でもお伝えしましたが、抗がん剤や放射線治療の副作用で食欲が低下している場合は、治療が終わればいずれ食べられるようになります。いまは「食べられるもの」を見つけるサポートをしてほしいな、と思います。
状況が許す範囲で、市販されているものも活用してください。手料理にこだわる方もいらっしゃいますが、メーカーさんそれぞれ驚くほど工夫されています。「いまなら口にできそう」というタイミングでさっと食べられるものがあると便利です。一例として、食べやすい工夫がされた食品をご紹介しますね。
お口の中に痛みがあるとき
■やさしい献立(キユーピー)
かむ力、飲み込む力にあわせ4種類のやわらかさに配慮したユニバーサルデザインフード。主食、おかず、デザート、それぞれラインナップも豊富。HPでは「やさしい献立」を使ったかんたんアレンジレシピも紹介しています。
https://www.kewpie.co.jp/udfood/product/
味覚に変化があるとき、食欲がないとき
■和風だし香る茶碗蒸し(クリニコ)
和風だしの旨みと、卵のやさしい舌ざわり。ツルンとした食感で冷やしても、温めても。
風味豊かな6種のラインナップ(かつお風味、ほたて風味、かに風味、ゆず風味、とり風味、まつたけ風味)
https://www.clinico.co.jp/ec/products/detail/148
おやつでも、積極的にエネルギーやたんぱく質をチャージしてほしい!
■リハたいむゼリー(クリニコ)
1袋あたりたんぱく質10g、ビタミンD20μg配合。いつでもどこでも飲めるゼリー飲料。
爽やかな4種のお味(マスカット味、もも味、はちみつレモン味、甘夏味)。
https://www.clinico.co.jp/ec/products/detail/104
スペシャル感のあるメニューを、プラスしたいとき
■あいーと(イーエヌ大塚製薬株式会社)
お肉もお魚もお野菜も、極限までやわらかく。喉や舌への刺激は抑え、そのぶん出汁やスパイスを工夫しています。定番のおかずはもちろん、スペシャル感のあるメニューも多彩に展開しています。
https://www.ieat.jp/
毎日の食事に、無理なくたんぱく質をプラスしたいとき
■エンジョイプロテイン(クリニコ)
消化吸収のよい乳清たんぱく質を使用。溶かしやすく、使いやすく、幅広いメニューに活用できる高たんぱく質粉末。ほとんど無味無臭なので飲みものや食べものの味をそこないません。
https://www.clinico.co.jp/ec/products/detail/12
4回の連載でお送りした「歯医者さんに聞く!がん治療とお口のケア」いかがでしたでしょうか。症状も感じ方も人それぞれ異なりますが、がんの治療によるお口の中に起こることについて、少しでも理解のお役に立てればと思います。
食事は、身体だけでなく心にも栄養を与えます。
がん治療中のみなさんが、毎日の食事を無理なく、美味しく食べられますように。