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連載3回 歯医者さんに聞く!がん治療とお口のケア 味覚の変化編

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がんの治療によってお口の中に起こることと、そのケアについて歯科医師の先生に教えていただく連載。毎回、多くの反響をいただいています。今回はがん治療で3〜7割の方に起こるといわれている「味覚の変化」について。味が感じにくいことで食欲が落ち、体力の低下へもつながるこの症状。口内で何が起こっているのか、どうすればいいのか、お口のプロに教えていただきます。

第1回記事「がん治療の前に」はコチラ
第2回記事「抗がん剤副作用の対処」はコチラ


高橋なぎさ 先生
歯科医師
老年歯科医学会及び摂食嚥下リハビリテーション学会所属
NPO法人摂食介護支援プロジェクト研修修了
介護食士 健康咀嚼指導士 日本糖尿病協会登録歯科医

髙橋なぎさ先生

味覚の変化が起きたとき、できること

味覚の変化が起こるタイミングについては、治療によって異なります。抗がん剤治療の場合は投与から約2日〜7日後、放射線治療(口まわり、頭部、頸部など)の場合はさらに後から症状が出てくるケースが多いようです。個人差があり、使用する薬にもよりますが、抗がん剤の場合は治療が終わってから3〜4週間後、放射線治療は3〜4ヶ月後に少しずつ回復してくるといわれています。

味覚の変化(味覚障害)を100%防ぐことはできませんが、軽減させることはできると思います。歯科医の立場から、毎日の中で気をつけてほしいことをお伝えします。

*味覚に変化を感じたとき、できること*

□保湿をする
口の中が乾いていると味を感じにくくなります。たとえば、口の中にドライヤーをあて乾いた状態で何か食べてみると、味がよくわからないんです。食べる前にお水を含んだり、唾液を刺激するなどして、口内が潤っている状態を保つよう意識してください。

味覚に変化を感じたとき、できること 保湿をする

□清潔にする
まず、歯磨きをマメにしてください。抗がん剤によって治療中は口内炎ができやすくなりますが、衛生的にすることで予防につながります。味覚というよりも、食べものを口に入れたときの質感への対処ですが、結局は質感も味覚のひとつです。

味覚に変化を感じたとき、できること 清潔にする

□よく噛む
よく噛むことで唾液が分泌され、味を感じやすくなります。よく噛むことにより味成分が出て、唾液に溶けて味を感じる仕組みです。子どもの頃、嫌いな食べ物は味を感じないようにまる飲みしませんでしたか?
また、噛むことにより消化がスムーズになり、栄養の吸収もグンと上がります。「よく噛んで食べる」というのはよく聞く言葉ですが、とても大切なことです。ただ義歯を入れている方は、しっかり噛めるよう義歯が合っているか、歯医者さんでチェックしてください。

味覚に変化を感じたとき、できること よく噛む

□亜鉛不足をチェックする
亜鉛は味覚のセンサーである味蕾の働きに、重要な役割を果たします。お薬によっては亜鉛の吸収を低下させてしまうものもあり、味覚のセンサーが上手に働かなくなることも。また、治療により食欲が落ちてしまうと、亜鉛の摂取量も減少してしまうことになります。食事で摂れない分は、サプリで補うなど工夫しましょう。

味覚に変化を感じたとき、できること 亜鉛不足をチェックする

〜和食がおすすめ!〜
近年、和食に欠かせないお出汁には、唾液の分泌を促す働きがあると注目されています。その中でも昆布出汁にはうま味成分の一つ「グルタミン酸」が多く含まれ、お口の中にある小唾液腺を刺激。レモンや梅干しなどの酸味よりマイルドなだけでなく、じんわり長く唾液の分泌を促します。

和食がおすすめ!

味覚の変化と乾燥について

味覚の変化が起こる理由については『舌にある味を感じるセンサー味蕾(みらい)という細胞が影響を受けるため』と以前お伝えしましたが、味蕾は味を感じる窓口のようなもの。食事をしたとき、食べものと唾液が混ざり合い、味のもとを味蕾へ運び、味蕾が感じた情報を脳へ伝える。だから口の中が乾いていると、味のもととなる物質が味蕾に運べないのです。

味覚の変化と乾燥について

唾液の分泌が少なくなるのは、抗がん剤治療の影響もあります。けれどそれ以外にも、服用している他のお薬の影響も考えられます。乾燥の原因になるお薬は多くあります。アレルギーのお薬や頭痛のお薬も、口内を乾燥させる原因になることがあります。たくさん薬を服用していると、それだけ乾燥リスクは高いということですね。
薬の影響以外にも、代謝が落ちていると唾液が出にくかったり、ストレスや加齢も影響します。

味覚の変化と乾燥について

味覚の変化が起こったら、まずがんを治療している担当の先生に相談してください。かかりつけの歯医者さんや耳鼻咽喉科でも、唾液を出しやすくするマッサージやアイテム、症状を軽減するためのフォローはできます。

もし、かかりつけの歯医者さんがいない場合は、がん患者さんへのお口のケアについて知識を習得した歯科医師を下記のHPで確認できますので、チェックしてみてください。

がん診療連携登録歯科医師

症状別、食べ方のくふう

味覚が変化する、といっても症状はさまざまです。「砂を食べているみたい」「何を食べても苦い/甘い」「食べもの本来の味がしない」味覚障害の中でもとくにこのような声をお聞きします。
ただし、食べ方次第で軽減はできます。感じ方に個人差はありますが、食べ方のくふうをいくつかご紹介します。ご自分にできそうな方法を見つけ、試してみてくださいね。

砂や砂利を噛んでいるようで口あたりが悪い

◯食べる前にお水を少し口に含む>>口内を潤しテクスチャーを感じやすくする
◯水分がある料理は、あんかけにする>>なめらかにし、口あたりをやさしくする
◯お味噌汁やお茶などを挟みながら食事する>>口内を潤す
◯出汁を上手に利用して調理する>>出汁で唾液の分泌を促す
◯香りのある食材や香辛料を利用する※>>味にアクセントをつける
 ※口内に痛みがない場合

何を食べても苦く感じる

◯シンプルに、苦いと感じるものは避ける
◯とろみ、出汁、うま味、香りを利用する
◯脂肪分(マヨネーズやバターなど)でコクをつける、包みこむ
◯木製や陶器のスプーン・フォークを使う>>金属製の食器は苦味を感じることがあります

何を食べても甘く感じる

◯お砂糖やみりんなど甘い調味料を控える
◯レモンやお酢など酸味を利用する※>>味にアクセントをつける&唾液の分泌を促す
 ※口内に痛みがない場合

食べものの味がしない 味を感じにくい

◯お野菜などはあえて固めにゆでる>>食感で味を代用する
◯食材の大きさを大小ばらばらにする>>食感で味を代用する
◯スパイスや香味野菜(大葉や生姜など)を利用する>>香りで代用する

味は「これまで食べたものの記憶の再生」ともいえます。
カレーといえばスパイスあの香り、お肉やお野菜のあの食感、と思い浮かびますよね。なので、たとえ味が分かりにくくなっても、香りや食感など他の要素で「味を感じる」アプローチをしてみてください。
味覚が変化するとどうしても食べることに消極的になりがちですが、食べられる方法を見つけながら食事を楽しんでいきましょう。

症状別、食べ方のくふう

いかがでしたか?
今回はがん治療中の多くの方が抱える悩み、味覚の変化についてお伝えしました。がん治療中の食事が、美味しく、楽しめる時間になりますように。
次回は食欲がないときの栄養の摂り方、そして家族の関わり方についてお届けします。

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