医療用麻薬は「中毒になるかもしれない」「余命が短いから使う」などのイメージを持っていませんか?
医療用麻薬は、医師の指示通りに使用すれば、不正麻薬のように中毒になることはありませんし、がんによる痛み強い場合は早期に使用することもあります。とはいえ「麻薬」という言葉には悪いイメージがつきまとい、抵抗がある方も多いですよね。
今回は、医療用麻薬の種類と効果、不正麻薬との違いを解説します。
医療用麻薬と不正麻薬のちがい
医療用麻薬は、通常の鎮痛薬では抑えられない痛みに対して使われ、末期がんや慢性疼痛(3ヶ月以上続いたり、怪我や病気が治っても続く痛み)などに使用される医薬品です。医療用麻薬は、国が定める基準に従って、有効性と安全性が確認され、製造販売されていることから、違法麻薬とは根本的に異なります。
覚醒剤や大麻などの違法薬物は、使用することで脳に存在するドパミン(ドーパミン)の分泌が促進されます。ドパミンは気分を高揚させる神経伝達物質であり、達成感や幸福感を感じるために必要です。しかし、麻薬によって無理やりドパミンを放出させることで、脳内のドパミンが過剰になり、中毒や依存症にもつながります。
不正麻薬は、使用するうちに快楽効果が減少して服用量が増えてきますが、医療用麻薬については長期間の使用で薬の効果が薄くなるということはありません。しかし、症状が進行することで痛みが強くなった場合は、服用量を増やす必要があります。
医療用麻薬は、痛み止めとして100年以上前から使用されており、長年の研究から麻薬中毒を起こさずに使用することが可能となりました。基本的には、医療用麻薬は、痛みがある人には中毒や依存症などが起きません。1986年には世界的な保険問題に取り組み、基準を設定するWHO(世界保健機構)でも、医療用麻薬の使用についてのガイドラインが制定されています。
医療用麻薬に副作用はあるの?
末期がんなどの痛みに使用することから「寿命が縮まる」「余命が短いから使う」と思われるかもしれませんが、慢性疼痛にも利用されることから、余命宣告されていなくても使う場合もあります。また、医療用麻薬を使用することによって、痛みによる食欲不振、不眠を予防・改善できるので、イメージとは逆に寿命を伸ばすことも期待できます。
不正麻薬とは異なり、中毒症状や依存症がない医療用麻薬ですが、代表的な副作用として便秘や吐き気、眠気などの副作用がみられます。
便秘については、医療用麻薬を使用した患者さんの8割が経験していますが、下剤で対処できます。吐き気や眠気についても、3割ほどの患者さんが経験するとも言われていますが、使用しているうちに症状が落ち着いてきます。
医療用麻薬と鎮痛剤のちがい
がんの痛みを抑える治療薬は、大きく分けて3つ存在します。
がんの痛みを強く抑える医療用麻薬、頭痛や関節痛など通常の痛みに対しても使用される「抗炎症薬」、神経痛や痺れなどの痛み止めが効きにくい痛みに使用される「鎮痛補助薬」があります。
「抗炎症薬」は、体内に存在する痛みや、炎症の原因物質の生成を抑制することで痛みを抑えるのに対し、医療用麻薬は神経に働きかけます。別名オピオイド鎮痛薬とも呼ばれ、脳や脊髄、末梢神経などに存在するオピオイド受容体に結合することで鎮痛効果を発揮します。医療用麻薬によってオピオイド受容体が活性化すると、痛みが脳や脊髄へ伝達されるのを抑えることができます。
「鎮痛補助薬」は、ズキズキするような痛みが伴う神経痛で通常の痛み止めや医療用麻薬では効果が薄いときに使用されます。神経痛に対しては、抗うつ薬や抗けいれん薬などが使用される場合もあります。
がんによる痛みで医療用麻薬を使用する場合は、段階的に鎮痛薬を追加していきます。最初から強い効果のある医療用麻薬を使用するのではなく、痛み止めを段階的に使用することで、患者さんに最善の医薬品を検討していきます。
緩和ケアでの役割
医療用麻薬は、緩和ケアにも大きく関わっており、がん治療において重要な医薬品の一つです。緩和ケアを早期に行うことで、がん治療の成功率を高めることも期待できます。
がんの治療には心身ともにさまざまな苦痛が生じます。緩和ケアは、がん治療に伴う苦痛を和らげて、前向きに治療できるようにすることを目的としています。緩和ケアは終末期に行うターミナルケアとは異なり、患者さんが治療しながら心身ともに苦痛のない生活をしていくために、がんと診断されたときから始めることが重要です。
緩和ケアには、痛みや倦怠感などの身体的苦痛や、がん治療への不安などの心理的苦痛、家族との関係や仕事の継続などの問題に対する心理社会的苦痛、死生観や人生の意味について考えるスピリチュアル的なケアが含まれます。緩和ケアのなかで、医療用麻薬は、がんの進行に伴う身体的苦痛に使われます。
医療用麻薬で生存率が高まる可能性も
がんに伴う痛みは、睡眠不足や食欲減退による栄養不足を起こすこともあります。このような症状が原因となり、気分が落ち込むことで、がん治療へのモチベーションの低下にもつながるので早めの対処が必要です。
マサチューセッツ総合病院で行われた調査では、早期に緩和ケアを行ったことで生存期間が3ヶ月ほど延長することが報告されています。医療用麻薬によって痛みをコントロールすることで、生活や治療がしやすくなり、生存率の向上が期待できます。
がんによる痛みは我慢しないで相談を!
医療用麻薬は、がんによる痛みを取り除くために必要不可欠な薬と言えます。痛みを我慢することで、心身ともに消耗する場合があるので早めに対処することが重要です。
しかし、ニュースなどで目にしている不正麻薬のイメージがつきまとい、医療用麻薬に対して抵抗を感じるのは当然のことでもあります。痛みの相談以外にも医療用麻薬を使うことに対する不安も医師や看護師に相談できます。正しく、安全に医療用麻薬と付き合い、痛みのない快適な治療生活を送りましょう。
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