がんの治療によってお口の中に起こることと、そのケアについて歯科医師の先生に教えていただく連載。前回はがん治療がはじまる前に歯医者さんへ行く理由と起こりやすい症状をご紹介しました。第2回目からは、具体的な内容とともにその対処法やケアについてお届けします。
第1回の記事はコチラ
高橋なぎさ 先生
歯科医師
老年歯科医学会及び摂食嚥下リハビリテーション学会所属
NPO法人摂食介護支援プロジェクト研修修了
介護食士 健康咀嚼指導士 日本糖尿病協会登録歯科医
抗がん剤の影響で起こりやすい症状と対処法
前回(第1回)は抗がん剤や放射線治療の影響で、お口の中に起こりやすいトラブルとして「味覚障害」「口内炎」「乾燥」の3つをご紹介しました。今回は「歯肉出血」「末梢神経障害」も加え、その症状とともに対処法についてもお伝えしたいと思います。
【味覚障害】
食べ物の味がしなかったり、嫌な味がしたり、特定の味だけ強く感じたり…抗がん剤治療によって味の感じ方が変わることがあります。原因は舌にある味を感じるセンサーの役割を果たしている“味蕾(みらい)”という細胞が影響を受け、働きが低下するため。また、唾液の分泌が減って口の中が乾燥することも味を感じにくくさせる要因となります。
唾液が少なくなると味覚は感じにくくなるので、食事の前に口内をしっかり潤すことが大事。保湿ジェルや保湿スプレーなどで潤してから食事をするとよいです。
また、味覚と関係のあるミネラルに亜鉛があり、お薬によっては亜鉛の吸収を低下させたりするため主治医の先生に相談のうえ亜鉛剤やサプリを摂るという方法もあります。
【口内炎(粘膜炎)】
口内炎は治療中にお口の中に起こる代表的なトラブル。噛んだり傷つけたりなど物理的刺激がなくてもできてしまいます。食べたり飲んだりするとしみたり、口の中が腫れぼったくなっていたり、出血したり、会話がしにくくなったり、症状が重いと日常生活に大きな影響が出てしまいます。
お口の中を清潔に保つことが大事ですが、痛みに対する対処としては塗り薬が有効です。お医者さんから処方してもらうことになりますが、麻酔効果のある保湿ジェルやうがい薬を使うと粘膜の痛みがやわらぎます。
※麻酔効果のあるジェルやうがい薬は、医師の処方が必要です。
【乾燥】
治療によって唾液を分泌する細胞がダメージを受けることで起こります。乾燥がひどくなると菌が増え、虫歯や口臭の原因になります。食べ物が飲み込みにくくなり、舌がお口の中で張りついて会話がしにくくなることも。痛みにつがなる場合もあります。
乾燥に対しては何といっても保湿です。手軽に行えるという点からうがいが推奨されることが多いのですが、歯科医師としては保湿剤をおすすめします。保湿ジェルや保湿スプレーなど、お口の中で滞留時間が長い粘性があるものがよいです。
【歯肉出血】
食べた後や歯ブラシの後などに出血することがあります。抗がん剤治療により、血小板が減少するために起こります。血小板は血液を構成する細胞のひとつで、出血を止める働きがありますが、お口の中が乾燥していると傷ができやすいので、保湿をして出血を防ぐことが大切です。
出血しにくい環境を整えておくのが大事。例えば歯周炎で歯肉が腫れているなら、歯石をとるなどの歯周病ケアを。それとやっぱり保湿ですね。保湿ジェルやスプレーなどで、お口の中の滑りをよくしておきましょう。
【末梢神経障害】
お口の中がピリピリしたり違和感があったり痛みがあったり…抗がん剤の影響で神経が障害を受け感覚に異常が生じる症状です。痛みの程度や場所が日によって変化する場合もあり、外傷はないのに違和感を感じることがあったら主治医に相談してください。
トラブルにはケアグッズを活用しよう!
お口の中の痛みや乾燥をやわらげるグッズがあること、意外と知られていないのでご紹介したいと思います。こうしたグッズを活用して、お口のトラブルと上手に付き合っていきましょう。
うがい薬・マウスウォッシュ
口内を清潔に保ち、潤いを与えます。口臭などが気になるときにも。ノンアルコールなど、低刺激のものをチェックして選びましょう。
バイオティーン240mL(グラクソ・スミスクライン・コンシューマー・ヘルスケア・ジャパン)
とろみ感のあるテクスチャー。ノンアルコール処方。唾液と同じ中性域。
https://japan.biotene.com/dry-mouth-products/mouthwash.html
口腔ケアシート
口内が痛くて歯ブラシが使えない時に。アルコールフリーなど、低刺激のものを。痛みが強い時は無理に使わず、まず保湿からスタートしましょう。
リフレケア®W 80 枚入(雪印ビーンスターク)
介護従事者の声から生まれた小さめサイズ。メッシュシートで汚れをキャッチ。アルコールフリ ー。
https://www.beanstalksnow.co.jp/oralcare/refrecare_w/
保湿スプレー
口内の保湿に。お水よりも保湿効果が高く、他のアイテムがいらないので手軽。保湿ジェルに比べるとお口の中に滞留する時間が短め。ノンアルコールタイプなど低刺激のものを。
アクアバランス 薬用マウススプレー 30mL(ライオン歯科材株式会社)【医薬部外品】
携帯に便利なスプレー型。ノンアルコールタイプ。爽やかなレモンの香味。
https://www.lion-dent.com/client/products/basic/aquabalance.htm
保湿ジェル
口内の保湿に。スプレーより粘度が高いため、長くお口の中に滞留し保湿効果がより期待できます。ただし、塗るために綿棒などグッズが必要だったり、指が汚れるという一手間があります。
※保湿ジェルは粘度が高いものだとのびにくい場合もあるため、先に軽くうがいをすると使いやすいです。
マウスモイスト 72g(オオサキメディカル)
のびがよく、塗りやすいテクスチャー。ノンアルコールタイプ。爽快感のあるミント味。https://www.osakimedical.co.jp/products/nsc003_004/
食事をするのがつらい時の、食べ方アイディア
お口の中が痛くて食事が摂れない時、あるいは味覚障害で食事をするのがつらい時はどうしたらいいですか?とご相談をいただくことがあります。病気で食欲が落ちると「身体のために食べなきゃ、栄養摂らなきゃ!」と自分を追い込んでしまいがちですが、私はそれよりも「食べられるものを食べること」が大事だと思います。
少しでも食べやすくするためのアイディアをお伝えしますね。食べられるもの、ご自身が好きな食べものを見つけるときの参考にしてください。
☆味覚障害
口内に痛みがない場合→適度な刺激で食欲促進!
・味つけはしっかり(はっきり)めにする
・香りで食欲が刺激されるので、スパイスなども活用する
・お料理にあわせた温度(冷たいものは冷たく、温かいものは温かく)でいただく
☆口内炎・粘膜炎
口内に痛みがある場合→刺激をさけ食べやすく
・味つけはやさしい味、うす味にする…塩味が強いと刺激を感じたりしみたりすることもあるため
・テクスチャーはなめらかなもの(おかゆ、ポタージュ、茶碗蒸しなど)を
・アイスクリームなど、冷たさが心地いいと感じるものはOK
*エネルギーチャージの技*
オイルちょい足し!
食べ方を工夫してもやっぱり食欲が落ちてしまう、そんな時にエネルギーを手軽に補給できるのが「オイルのちょい足し」。おすすめはMCTオイル。ヨーグルト、コーヒー、お味噌汁、ポタージュスープ…ご自分が食べやすいものに量を調整しながらかけるとカロリーと栄養価、ダブルでupします。オイルは滑りもよくするので、喉越しもなめらかになりますね。
おやつを上手に利用する
ゼリー、アイスクリーム、ムース、ケーキ…お好きなおやつはありますか?栄養のバランスは重要ですが、そこにとらわれすぎずに「いま食べられるもの」を美味しく食べることが大切です。好きなおやつの中でも和菓子より洋菓子の方がカロリーが高いかな?とか工夫してみてくださいね。
いかがでしたか?
少しでもお口のトラブルと上手に付き合うヒントに少しでもなっていれば幸いです。次回は副作用による味覚の変化についてお届けします。