 
            【専門家監修】抗がん剤による爪の副作用ケア|原因と今日からできるセルフケア
目次
抗がん剤治療が始まると、脱毛や吐き気だけでなく、爪に思いがけない変化が現れることがあります。
爪が黒っぽく変色する、ささいなことで欠け・割れが生じる、爪の周りの皮膚が炎症を起こしてズキズキと痛む。「こんなに辛いのは自分だけだろうか」と、一人で不安を抱えていらっしゃるかもしれません。
爪のお悩みは、抗がん剤治療を受ける多くの方が経験する副作用の一つです。
この記事では「なぜ爪に副作用があらわれるのか」という原因から、今日からすぐに実践できる具体的なセルフケア方法、症状が続く時期まで、専門家の知見を交えながら分かりやすく解説します。
始まることには終わりがあります。正しい知識とケアで、つらい症状を緩和させるための一歩を一緒に踏み出しましょう。

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抗がん剤の副作用が爪にあらわれるのはなぜ?原因と治療前のケア

抗がん剤による爪の副作用 | 症状があらわれる原因
抗がん剤は、分裂が活発ながん細胞の増殖を抑える力強い味方です。
しかしその一方で、がん細胞と正常な細胞を完全に見分けることは難しいため、がん細胞と同じように細胞分裂が盛んな正常な細胞にも影響を与えてしまうことがあります。
抗がん剤の副作用というと、一般的に外見の変化が大きい髪の脱毛が知られています。
髪の毛をつくる毛母細胞(もうぼさいぼう)と同じように、爪をつくる爪母細胞(そうぼさいぼう)も、非常に活発に分裂を繰り返している場所です。そのため、抗がん剤の影響を受けて爪の正常な成長が妨げられ、変色や変形、脆さといったさまざまな症状が副作用としてあらわれるのです。

抗がん剤による爪の副作用 | 症状は予防できる?知っておきたい治療前のケア
副作用を完全に防ぐことは難しいですが、治療が始まる前から備えることで、症状を軽くしたり、悪化を防いだりすることが期待できます。
可能であれば、治療開始前から準備やケアを始めてみましょう。
● 抗がん剤投与前に保湿する
爪や爪周りの皮膚に、ハンドクリームやネイルオイルを塗って保湿する習慣をつけましょう。
乾燥はあらゆる爪トラブルの原因になります。治療前から爪のバリア機能を高めておくことが大切です。
● 爪を整える
治療が始まると爪が脆くなりやすいため、衝撃を受けやすい長い爪はリスクになります。
できるだけ短く整え、やすりで角を滑らかにとっておくと、治療中の割れや引っかかりを防ぐことができます。
● 冷却療法
抗がん剤を投与している間、手足を専用のグローブやソックスで冷やす方法です。
血管を冷却して収縮させることで、身体の末端に薬剤が届きにくくなり、副作用が軽減されると言われています。すべての医療機関で実施しているわけではないため、希望する場合は事前に主治医に相談してみましょう。

抗がん剤による爪の副作用 | 症状はいつまで続く?回復までの期間の目安
先が見えないと、不安な気持ちは大きくなります。
抗がん剤による爪への副作用が続く期間には個人差がありますが、一般的な目安を知っておくことで、少し気持ちが楽になるかもしれません。
抗がん剤による爪への副作用は、薬の種類や個人差によって症状に差が出ます。
多くの場合、抗がん剤投与開始後、数週間~数ヶ月であらわれ始めることが多いといわれています。治療を続けている間は症状も継続する傾向にありますが、大切なのは治療が終われば、時間はかかっても爪は新しいものに生え変わっていくということです。
一般的に、手の爪がすべて生え変わるのには約半年、足の爪はそれよりも遅く約1年かかると言われています。
変色した部分が爪の伸びとともに先端に移動し、根元からきれいな爪が生えてくるのを確認できると、回復を実感できるでしょう。
抗がん剤の副作用で爪はどうなる?主な症状とケア方法
治療中に爪にさまざまな変化が現れると不安になりますよね。
これからご紹介する症状は、多くの方が経験するものです。それぞれの症状に合った正しいケアを知ることで、痛みや不快感を和らげることができます。

【炎症】爪囲炎や化膿、痛みへのケア
爪囲炎(そういえん)とは、爪の周りの皮膚が炎症を起こし、赤み、腫れ、痛みを伴う状態です。
ささくれや小さな傷から細菌が入り込むことで起こりやすく、悪化すると膿が出ることもあります。
爪囲炎のケアの基本は「清潔・保湿・保護」の3つです。
● 清潔(保清)
低刺激性の石鹸をよく泡立て、指先を包み込むようにやさしく洗います。
痛みがある部分をゴシゴシこすらないようにしましょう。洗浄後はタオルでやさしく押さえるように水分を拭き取ります。
● 保湿
洗浄後、すぐに処方された軟膏や保湿剤を爪の周りまで丁寧に塗り込みます。
乾燥させないことが、バリア機能を保つうえで非常に重要です。爪が脆く割れやすい場合は、ベース爪が脆く割れやすい場合は、ネイルポリッシュ(ベースコート)などで保護すると良いでしょう。
● 保護
ガーゼや指先用の保護テープでやさしく覆い、外部からの刺激を守ります。
水仕事の際は、綿の手袋の上からゴム手袋をはめるなど、指先が直接水や洗剤に触れない工夫をしましょう。

【変色】変色へのケアと見た目のストレスを減らす工夫
抗がん剤による副作用の影響で爪にメラニン色素が沈着し、黒っぽい筋やシミが現れたり、爪全体が黒ずんだりすることがあります。
この変色は身体に害を及ぼすものではありませんが、爪は日常生活でも目に入りやすい部位のため、見た目が気になってしまう方も少なくありません。そんな時は、爪への負担が少ないアイテムで見た目をカバーするケアを取り入れるのも一つの方法です。
● 水性ネイル
水性ネイルは爪に負担をかけないやさしい成分でできており、ネイル特有のにおいがないことが特徴です。
有機溶剤(アセトンなど)を含んでいないため、デリケートな爪にも安心して使えます。ネイルを落とす方法は製品によって異なりますが、アルコールや刺激の強い除光液を使わずに、ぬるま湯でふやかすだけで簡単にオフできます。
● ネイルポリッシュ(ベースコート)
爪に色がつくことに抵抗がある方は、ほんのりと色づくナチュラルなネイルポリッシュ(ベースコート)もおすすめです。表面のツヤをなくしマットな質感にするトップコートもあるので、男性も使いやすいでしょう。色の補正だけでなく、爪自体の補強にも◎
抗がん剤の副作用による爪の変色は、無理に隠す必要はまったくありません。
しかし、自分の目に入る部位をケアすることで気分が明るくなり、前向きな気持ちで治療と向き合えることもあります。

【割れ・欠け】爪の脆弱化(ぜいじゃくか)へのケア
爪の水分や油分が失われることで、爪が乾燥して非常にもろくなります。
少しの衝撃で二枚爪になったり、爪の先が欠けたり、ひどい場合は爪が浮いて剥がれてしまうことも。
ここでのケアのポイントは、「保湿を徹底する」「爪を滑らかに整える」「保護する」「衝撃を避ける」の4点です。
● 保湿を徹底する
ネイルオイルや保湿成分(セラミド、ヒアルロン酸など)の入ったクリームを、1日に何度もこまめに塗りましょう。とくに手洗い後や入浴後は欠かさず行ってください。
● 爪を整える
爪への負荷が大きい爪切りは避け、目の細かい爪やすり(エメリーボード)を使い、やさしく削って長さを整えましょう。爪切りを使用する場合には、爪への衝撃を抑えるためにカットする範囲を狭め、細かくカットするようにします。その後、爪やすりで形を整えると負担なく整えることができます。
●爪を保護する
爪の成分を補うような爪専用の美容液や、爪を物理的に補強するベースコートを塗るのも効果的です。また、重ねて塗ることでコーティングが強化されるので、2~3度重ねて塗るとよいでしょう。
● 指先の使い方を工夫する
缶のプルタブを開ける、シールを剥がすといった動作は、爪先ではなく指の腹を使うように意識するだけで、爪への負担を大きく減らせます。指先の代わりに使えるような、便利グッズも多数発売されているので、それらを利用するのも良いでしょう。
がん治療中の家事がラクになるグッズは、こちらの記事でも紹介しています。
がん治療中もがんばってしまうあなたへ!頼れる「家事ラクグッズ」

逆効果になることも?やってはいけないNGケア
良かれと思ってしたケアが、かえって爪の状態を悪化させてしまうことがあります。
抗がん剤治療中のデリケートな爪には、以下の行為は避けるようにしましょう。
● 甘皮の切りすぎ・押しすぎ
甘皮は爪の根元を雑菌から守る大切な役割をしています。処理しすぎると、そこから菌が入り炎症の原因になります。
● ささくれをむしる
無理にむしると皮膚が傷つき、そこから感染を起こしやすくなります。ささくれは根元から清潔なハサミやキューティクルニッパーでカットしましょう。
● 深爪(爪の切りすぎ)
爪を短く切りすぎると、端が皮膚に食い込んで痛みの原因になります。指先と同じくらいの長さを目安にしましょう。
● アセトン入り除光液の使用
アセトンは爪の水分と油分を強力に奪ってしまうため、乾燥や脆さをさらに悪化させます。ネイルを落とす際は「アセトンフリー」のものを選ぶか、アセトン入りの除光液使用後は、しっかり保湿ケアをするようにしましょう。
爪に症状がでたら生活に影響はある?日常生活で気をつけたいポイント

爪のトラブルは、日常生活のささいな動作の積み重ねで悪化することがあります。
生活のシーンごとに少し工夫をするだけで、爪への負担を減らし、痛みや悪化を防ぐことができます。
● 家事(水仕事)
指先が直接水や洗剤に触れないよう、必ずゴム手袋を着用しましょう。肌への刺激を減らすため、綿の手袋をはめた上からゴム手袋をはめる「二重手袋」がおすすめです。
● 入浴
身体を洗う際、ナイロンタオルなどで爪を傷つけないように注意しましょう。また、長時間の入浴は爪をふやかし脆くする原因になるため、なるべく短時間で済ませましょう。
● 着替え
ボタンやファスナーの操作は、爪先ではなく指の腹を使いましょう。とくにストッキングやタイツを履く際は、爪が引っかかりやすいので慎重に行ってください。
● 就寝時
一日の終わりに、保湿剤やネイルオイルを爪と指先にたっぷり塗り込みましょう。その上から綿やシルクの手袋をして寝ると、朝まで潤いが保たれて効果的です。
● 靴えらび
足の爪も、手の爪と同様に抗がん剤の影響を受けます。指先を圧迫するような先の細い靴やヒールの高い靴は避け、足のサイズにあった靴を選び、つま先にゆとりのある柔らかい素材の靴を選びましょう。
セルフケアで改善しない…病院へ行くべき?受診の目安

セルフケアは爪の副作用対策として非常に重要ですが、痛みを我慢しすぎるのはよくありません。
症状が悪化したり、ご自身のケアだけでは改善が見られなかったりする場合は、ためらわずに専門家に相談することが大切です。
抗がん剤治療中の足指の副作用対策・靴の選び方は、こちらの記事でも紹介しています。
【前編】抗がん剤副作用のしびれ対策にも!ラクに歩く足ケア&ゆるトレ
この症状がでたら医師に相談!症状の目安
以下のような症状が見られたら、自己判断で様子を見ずに、早めに主治医や看護師に伝えましょう。
・痛みが我慢できないほど強い、または痛くて眠れないなど日常生活に支障がある
・爪の周りがパンパンに赤く腫れて、熱を持っている
・傷口から黄色い膿が出ている、または普段と違う嫌なにおいがする
・爪が根元から大きく浮いて、剥がれそうになっている
・セルフケアを続けても、症状がどんどん悪化していく
どこに相談すればいい?主治医、皮膚科、がん相談支援センター
「誰に相談したらいいかわからない」という場合のために、主な相談先をまとめました。
一人で悩まず、適切な場所に相談することが早期解決の鍵となります。
今までお伝えした症状以外にも、抗がん剤治療により基底細胞の分裂・増殖が阻害され、爪の成長に障害が起こり巻き爪になってしまう場合もあります。陥入爪になった場合は感染や症状が進行する可能性があるため、不具合を感じたら早めに相談をすると良いでしょう。
● 主治医・看護師
がん治療の経過を一番よく理解している、最も身近な相談相手です。症状を伝えることで、抗がん剤との関連性を判断し、必要であれば皮膚科などの専門医へつないでくれます。
●皮膚科
爪は皮膚の一部なので、皮膚科の医師は爪の専門家です。専門的な診断のもと、症状に合った塗り薬や飲み薬を処方してもらうことができます。
● がん相談支援センター
全国の「がん診療連携拠点病院」などに設置されている無料の相談窓口です。爪の悩みはもちろん、がん治療や抗がん剤の副作用、治療生活全般に関するさまざまな悩みを相談できます。
爪のケアに関するQ&A

ここでは、患者さんからよく寄せられる質問にお答えします。
Q1. 爪を強くするために、何か食べ物で気をつけることはありますか?
まずは栄養バランスの取れた食事が基本です。
そのうえで、爪の主成分であるタンパク質(肉、魚、卵、大豆製品)や、健康な爪の維持を助けるビタミン・ミネラル(亜鉛、鉄分、ビタミンB群など)を意識して摂ると良いでしょう。
特定の栄養素をサプリメントで補給したい場合は、薬との飲み合わせの問題もあるため、必ず事前に主治医や薬剤師に相談してください。
抗がん剤治療中のサプリメントや飲み合わせの相性は、こちらの記事でも紹介しています。
【薬剤師監修】がん治療とサプリメントの相性
Q2. 爪が剥がれたら、絆創膏で保護してもいいですか?
剥がれてしまった爪は、残念ながら元には戻りません。
爪が剥がれてしまった場合は、無理にすべて剥がそうとせず、引っかかってさらに傷つけないように、ガーゼや保護テープなどで保護しましょう。
市販の絆創膏をきつく巻いてしまうと、かえって血行を悪くしたり、蒸れて感染の原因になることも。
爪が剥がれてしまった場合は、どう保護するのが最適か、一度主治医や皮膚科医に相談しましょう。
まとめ:つらい爪の副作用は正しいケアで乗り越えられる
抗がん剤治療中の爪のトラブルについて、原因から具体的なケア方法まで解説してきました。
抗がん剤の副作用による爪の症状は、決して珍しいことではなく、多くの人が経験するものです。
日々のケアは「清潔」「保湿」「保護」の3つが基本ですが、痛みがあってつらいときや判断に迷う場合は我慢せず、主治医や皮膚科医、がん相談支援センターなどの専門家を頼りましょう。
時間はかかりますが、抗がん剤治療が終われば、爪は健康な状態に生え変わっていきます。
爪のトラブルは、身体的な痛みだけでなく、人目が気になったり、好きなことができなかったりと、心の負担にもなりがちです。
どうか一人で抱え込まず、この記事で紹介したセルフケアを試したり、周りのサポートを活用したりしながら、あなたらしい毎日を送るための一助としてください。

編集 Massel編集部 佐藤
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