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【連載3回】名医の診察室 がん研有明病院 清水研医師

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精神腫瘍科の医師として、日々多くの患者さんのお話を聞いていらっしゃる清水先生。今回は苦しい気持ちを話すことの大切さについて、そして、苦しみをすこし越えたところで見えてくるものについて教えていただきました。
>>>第2話はこちら

 

誰かに話す、分かってもらえることの大切さ

がん患者さんの苦しみの原因は主に5つに分けられ、患者さんによって悩みが組み合わさったり、優先順位が違ったりします。

がん患者さんの不安

脱毛するのが嫌だ、という方は多くいらっしゃいます。極端な例として言えば、髪を失うのが嫌だから抗がん剤はやりたくないという方も。ほとんどの方は再発や生命の維持を優先して抗がん剤に踏み切りますが、頑なに嫌だという方に「特別な事情があるの?」と尋ね、よくよく話を聞いてみるとその理由はこうでした。

母が褒めてくれる人ではなく、ずっと自分に自信が持てなかった。でも「あなたのその髪は素敵よね」と言ってくれたことがあったから髪を大切にしたい。
髪は彼女にとって唯一自信のあるもの。それが失ったら自分には何もなくなってしまう…という思いがあったそうです。

「髪なんてなくても私は私よ」と思える強さがある人は「せっかくのウィッグだし、楽しもうかな」と気持ちを切り替えることができるのですが、多くの方は「ウィッグってばれないかしら」といった抵抗感が大きい。自分に対する信頼感と、ボディイメージは結び付いているのだと感じました。

花を持つ女性

精神科のカウンセリングでなくとも、誰かに自分の状況を話すことは心の整理につながると思います。スヴェンソンでも開催している、店舗でのメイクイベントやヨガ、がん哲学外来など患者さん同士で語り合ったり分かち合ったりという時間は、すごく意味のあることだと思います。自分たちで解決しているというか。がんのことに限らず、自分のことを分かってくれる人がいるっていうのは、人生で一番大切なことだと思うんです。

がん患者さんは孤独を感じることが多いです。病気のことは罹患したことがある人じゃないと分からない部分がある。だからこそ、患者会があるんだと思います。家族や知人で自分のことを理解してくれるって思える相手がいるならその方に話すのでもいいし、分かち合いの場を求められる方はコミュニティに参加してみるのもいいのではないでしょうか。

悲しいのは当然、あるがままの自分でいること

がんに罹患し人生がいつ終わるのか分からない、それが近いうちかもしれないと思うと、一日の凝縮性が高くなります。凝縮されたエネルギーがどこへ向くかというと「愛」なんです。生命に関わる修羅場のなかで一生懸命自分に尽くしてくれる人の姿が目に入るようになります。看護師さんや家族、そして社会をふくめ自分が世界に受け入れられている、愛されていると感じることに繋がるのだと思います。今まで人間なんてロクなもんじゃないと思っていた人も「今度は私が困った人を助けたい」となるんですよね。

支えあう人々

苦しみの最中にいる方は、自分の立ち直る力、苦しみから抜け出す力があるとは、とても信じられないかもしれません。

そんなときは、感情に蓋をせず、泣きたいときは泣き、怒りたいときは怒り、あるがままの自分の気持ちを認めましょう。あるがままの自分でいることが心の回復に繋がります。病気で落ち込んだり、何もしたくない、と思っている自分を責めないでください。「この状況と向き合っていることはとっても苦労することなんだ。常に前向きになれるわけないじゃない。落ち込むときは落ち込んだっていいし、やる気が出ないときは一休みしよう」と、ありのままの自分を許したり愛したりすることで、心の回復は早まります。

森と女性

がん告知後は、地図のない森の中を歩いている感じと似ています。「この森はいつになったら終わるんだろうか」…分からないまま歩いていると不安になりますよね。私たち精神科医は、その状況を空から眺めているので「あと100mも進んだら平原に出るな」ということが分かるわけです。森の中にいる人には、なかなか実感として伝わりづらいんですよね。そこで「もうすぐですよ」って言いながら伴走するのが私たちの役目です。

がんになって長生きできないと悲しんでいる方には「すこし時間がたてば、残された大切な時間をどう生きるか、そんな気持ちが動き出しますよ」と伝えています。あなたはすべて失ったわけじゃないけど、いまは失ったものの方に目が向いている。それくらい大切なものを失ったのだから、悲しむ時間は必要なんだよ。悲しくなるのは当然だよ、と。

最終話は、患者さんを支える家族の不安とケアについてです。
最終話はこちら>


清水 研 医師
がん研有明病院 腫瘍精神科 部長。2003年より、国立がん研究センターでがん患者と家族の診療を担当。医療者が患者に寄り添う医療現場での指導・講演活動も行う。『もしも一年後、この世にいないとしたら』(文響社)など、著書多数。
取材時:国立がん研究センター 中央病院 精神腫瘍科科長

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