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【連載2回】名医の診察室 がん研有明病院 清水研医師

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がん患者さんの心のケアを行う「精神腫瘍科」。第1話では精神腫瘍科はどのような場所で、一般の精神科と何が違うのかをお聞きしました。第2話では心のなかに浮かぶ「不安」の正体について、またその向き合い方について迫ります。不安な気持ちへの対処として清水先生があげてくださった具体的な方法の数々は、とても参考になりました。どうぞ、じっくりとお読みください。
>>>第1話はこちら

 

不安ってなんだろう?それはどうして起こるの?

治療を終えて通院の必要はなくなったけれど、日常のなかで再発への不安が消えなかったり、「再発したら次は薬が効かないんじゃないか」と先々のことを考え、胸がいっぱいになって相談される方もいらっしゃいます。現在治療中の方だけでなく、治療をある程度終えられた方も、がんに関わる悩みであれば精神腫瘍科でお受けしています。

不安とは、不確実な脅威があるときに起こる反応です。暗闇の中にいて、その場所に何があるのか、進む道も自分の足元さえも見えないと恐怖を感じますよね。大学を受験して合格発表を聞く前は不安を感じます。しかし、結果が発表されると、たとえ落ちていたとしても不安はゼロになり「悲しみ」に変わります。

不安というのは危険を察知して、危ないところに近づかないようにするアラームみたいなものなんです。不安をゼロにするのは現実的ではありませんが、アラームが鳴りすぎないように調整することが大切です。

アラーム

 

不安のアラームが鳴りすぎないためには

アラームが鳴りすぎないようにするには、いくつかの方法があります。
たいていの人がやるけど、上手くいかない方法の代表が「がんのことを考えないようにする」ことです。心理学では有名なシロクマ実験で証明されていますが、考えないようにしようと意識すると、皮肉なことに余計そのことを考えてしまうことがわかっています。結果「がんのことを考えてしまう」ことと「考えないようにしよう」とすること、両方にエネルギーを使うので2倍悩むことになります。

私は「行動から気持ちを変える」という方法をおすすめしています。悩みごとがあるとはいえ、人は一日中心配なことばかりを考えているのではありません。
たとえば、友達と楽しく他愛もない話をしているときは、あまり病気のことを考えないですよね。趣味などに没頭している時も考えないけど、家で何もせずにいるとマンガの吹き出しみたいに色んな不安が浮かんでくる…といった経験はありませんか?

悩み 不安

不安のアラームが盛大に鳴って、困っている患者さんには「不安日記(週刊活動記録表と呼ばれ、いろんなホームページで紹介されています)」をつけてもらいます。
朝ごはんを食べているときの不安は何点、通勤電車の中での不安は何点など、一日の自分の行動とその時の不安が何点かをリアルタイムで記録してもらうんです。

そうすると自分がどんな時に不安になっているか分かります。一人でいるときなのか、がん関連のテレビ番組を観ているときなのか、同じ病気の人のブログをみている時なのかとか。不安を感じやすい行動はやめたらいいし、不安を感じない行動を増やせばいい。これは有効性が証明されている行動活性化という方法論で、不安の変化を見える化することで自分のことが分かってきます。

風船

自分の努力で解決できる問題と、そうでない問題があり、例えば「資格試験に失敗したらどうしよう」という不安は、失敗しないように一生懸命勉強することにつながるという利点があります。しかし、がん治療がひと段落された方が抱える「再発したら嫌だな」という不安については、ほとんどの場合は結果を待つしかないわけです。

このような解決できない問題に対する不安については、不安が出てくるたびに「ああ、また自分は考えてもしょうがない不安に囚われているな」と自分を捉えてみることも役に立ちます。これも心理学的なテクニックのひとつなのですが、客観的、俯瞰的な視点をもつことが大切です。

俯瞰

たとえば、肩こりを感じるたびに、骨転移じゃないかと心配される方がいました。普段は気にならなかった身体の症状を、再発のサインじゃないかと危惧する。身体のサインを受け取ることは大切なことですが「ちょっと過敏になってるな」と思い、こんなお話をしました。

「骨転移かもしれない、って1日何回心配されてますか? 1日1回はそのことを考えているとしたら、少なくとも1年で365回です。今までそれだけ心配してきて、実際に転移だったことは1度もないですよね。そうすると 0/365、0%ですね。この過去の実績から、次に肩こりを感じても転移である確率は低いのではないでしょうか?」…そんな話をしているうちに、患者さんは気落ちが落ち着いてきたりします。

それでもどうしようもないぐらい不安だとおっしゃる方には、安定剤を服用し、薬の力で不安を消してしまう方法をおすすめしてみます。精神科の薬に抵抗感を持たれる方もいらっしゃいますが、専門医のアドバイスのもと使用していただければ心配ありません。

不安のアラームは鳴って当然。でも鳴りっぱなしだと生きづらいので、生きやすくなる方法を一緒に考えるのが私たちの仕事です。100%不安から解放されなくても「まぁしょうがないか」と腑に落ちたり、諦めたりして、心が軽くなることが大切です。

第3話はこちら>


清水 研 医師
がん研有明病院 腫瘍精神科 部長。2003年より、国立がん研究センターでがん患者と家族の診療を担当。医療者が患者に寄り添う医療現場での指導・講演活動も行う。『もしも一年後、この世にいないとしたら』(文響社)など、著書多数。
取材時:国立がん研究センター 中央病院 精神腫瘍科科長

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