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【連載 第4回】名医の診察室 がん研有明病院 大野真司 医師

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日本の乳がん医療を代表するお一人である、大野真司先生。がん研有明病院 乳腺センター長として患者さんの治療にあたるだけでなく、医師主導による乳がん専門の研究団体「JBCRG」を設立されています。なぜ、大野先生がこのような取り組みをされているか…ぜひ知っていただきたいです! いよいよ最終回、どうぞよろしくお願いします。

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大野先生

「医師主導」と「企業主体」それぞれの研究事情

新しい薬を国に保険承認してもらって、世の中に出す。
企業は当然自分たちがつくった薬を出したいですよね。それに対して「その薬は使い方を変えたほうが効果が出るんじゃないか」とか「他の薬と組み合わせたほうがいいんじゃないか」というのは、医師の判断であり、仕事です。

前回お話した「患者さんが、投薬しながら妊娠したいかどうか」なんてことも、企業は関係ない。そうすると、その研究分野では企業は資金を出してくれないので医師主導の臨床試験ということになります。

企業はあくまでも薬を売る、売れるようにするための試験を行います。
診察室ででた患者さんの悩みに応えるべく、可能性を探るのが医師主導の試験です。

薬

そんな思いから2002年、乳がんの研究を行う 任意団体としてJBCRGを立ち上げました。
日々患者さんを診察、治療する医師たちが中心となり、立ち上げ時は5人からのスタートでした。

まず、世界の学会に参加して、海外の動向や事情を探りました。
2000年まで日本には企業主導の臨床試験グループしかなく、医師主導の臨床試験グループはありませんでした。
海外では医師主導の臨床試験が存在していて、乳房切除と温存の研究などがされていました。アメリカが早かったですね。

現在、JBCRGは非営利の研究団体として、乳がんの生存率を上げる研究に、最も力を注いでいます。
乳がんで亡くなる人をゼロにする。
生きる希望を広げるための研究を行っています。

オブジェをもつ手

次に、副作用を少なくする研究です。
お薬はみんなに同じように効くわけじゃないので、誰にでも同じ薬を使うのではなく、その人のがんに効く薬を選ぶことが重要です。
100万円のお薬だって、使ってみたら効く人・効かない人がいる。その効き目が事前にわかれば、効かない人には別のお薬で治療できますよね。
そういうことを研究して、治療の効率を上げていくことが目標です。

本来、臨床試験は国民の未来のためにやるものなので、アメリカはドネーション(寄付)で研究資金を集められます。
日本の場合は寄付金の使い道が明らかになりづらく、寄付の文化が根ざさないこともあり、医療の発展が遅れる原因のひとつだと思います。

私たち臨床試験チームがめざす明日

臨床試験を行うには、働いているスタッフや事務所の家賃など、研究費だけでなくその他にかかるお金も必要です。
今まではスポンサー企業からの出資で、すべての費用が賄われていました。ですが法律が変わり、研究自体のお金のみに使用用途が限られたため、その他の必要経費は「寄付」という形で集めています。
国から十分な資金を出してもらうのは、難しい状況です。

大きな試験になると億を超え、妊娠の試験でも5,000万はくだらない。たくさんの人が関わるし、10年以上の観察が必要なので時間がかかるぶん、お金もかかります。

寄付金で行われる研究は、妊娠の可能性であったり、がん予防の研究です。
僕らとしてもクリニカル・クエスチョン(臨床の中で生じる問い)を解決したいので、寄付金を募って、未来のための研究ができるようにがんばっています。

子供を抱く母

これからの乳がんの治療は
『治療を高める(escalation)』
『治療効果を損なうことなく患者さんの負担(副作用)を減らしていく(de-escalation)』
これが大切になっていくと思います。
たとえば、がんのタイプによって、抗がん剤をしても効果がない場合。
今までは抗がん剤を投与してみないと、効果が分からないことが多かったですが、研究してホルモン治療で十分ですよ、と言えるように立証する。
そこで抗がん剤を省ければ、患者さんの身体への負担も少ないし、効率的になりますよね。
研究が進めば、こういう未来が近づきます。
昨日よりも今日、今日よりも明日、もっと良い医療をつくるために̶̶̶
そこに力を尽くすのが僕たちの使命です。

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