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【連載 第2回】名医の診察室 がん研有明病院 大野真司 医師
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日本の乳がん医療を代表するお一人である、大野真司先生。前回(第1回)は乳がん専門医として歩んでいこうと思うまでの道のりと、現在勤務されているがん研有明病院の体制についてお聞きしました。

今回は「セカンドオピニオン」がご専門の先生だからこそ大切にしていること、また患者さんへの思いをお話しいただきました。

前回(第1回)のお話はコチラ>>

大野先生

「今日、聞いてよかった」と思ってもらえるように

僕自身、患者さんと接する機会としては、週2回の外来での仕事で、セカンドオピニオン専門です。

「私のがんには、どんな治療が一番効くんでしょうか」セカンドオピニオンでいらっしゃる患者さんは、方程式のようにそのことをまず、一番に聞きます。主治医からは抗がん剤を使うべきだと言われたけど、本当に使わなければ治らないのか。乳房全摘だと言われたけど温存は無理ですか?などが多いです。
僕たちは患者さんにとって嬉しいニュースばかりを伝えられるわけではありません。しかしたとえ患者さんにとって辛いニュースをお伝えする場合であったとしても、最終的には「ああ、今日セカンドオピニオンで聞いておいてよかったな」と思ってもらえることが大切だと思っています。

薬

僕はセカンドオピニオンのカルテが手元に来たとき、まだ会ったこともない患者さんのことを静かに考えます。

この患者さんは、どのような伝え方をすれば病院から気持ちよく帰れるだろうか、と。

そうじゃないと、セカンドオピニオンなんて端的に事実伝えるだけになってしまうでしょう。
「乳房は切除です、以上」みたいにね。
同じ事実を伝えるのでも、どういう風に伝えたら「切除って言われたけど、たしかにそうだな」と納得してもらえるのかを考えます。

最初の病院でがんと診断を受けたものの、有明で診たら、がんじゃなかったというケースもあります。
がんじゃなかった…患者さんにとってはグッドニュースだと思うのですが、事実をそのまま伝えると、不安になる方もいます。
「じゃあこの体調不良の原因は何なの?」って。なので、最初の病院でなぜがんと診断されたか、ということも納得できたら、晴れ晴れとして病院を出られますよね。

セカンドオピニオン 3つのパターン

セカンドオピニオンはこの3つのパターンが多いので、目の前の患者さんはどのパターンなのかな?と考えます。病院を移りたい人に、治療方針を長々と説明しても、求めているものが違いますからね。
しかし転院を希望される方の中でも、有明で治療を引き受けられる人と、そうでない人がいます。病状や通院ができるかどうかなど、理由は色々ありますが、その場合もどう伝えたら気持ちよく帰ってもらえるか、よく考えてお話します。

風船をもつ少女

脳天をカチ割られたできごと

食道がんから乳がんの専門医になって、大きな違いを感じたことがあります。食道がんの患者さんは男性が多く、検査結果や治療方針を1時間くらいお話して、最後に今の説明で大丈夫ですか?と尋ねると、「はい」と応えてくれる方がほとんどでした。

乳がんの患者さんの場合は、同じくらいお話して同じように尋ねると「私は乳がんですか?」
「入院しなきゃいけないんですか?」と聞いてきます。僕は、あれ?理解してくれてなかったのかな。いま説明したのにな~と、不思議に思っていました。「だから…」と最初から説明を繰り返すことがあまりにも多いので「だから外来」と呼んでたくらいです(笑)。

 けれどある日、ひと通りお話したあと「今すぐ入院しなきゃならないんですか?」と聞いてきた患者さんに、どうしてですか?と逆に聞き返してみました。そしたら「子どもの卒業式に出たいんです」って答えが返ってきて……その時、脳天をカチ割られましたね。僕が病状や治療の話をしている間に、患者さんはずっとそのことを考えてたんだって。

患者さんは頭が真っ白になったんじゃなくて、僕が真っ白にさせたんだ、ってね。

ばら

そのことがあってから、最初からすぐに検査結果を伝えるのをやめました。
たとえば、ご自宅で心配でしたか?というような会話から始めると「心配でした。乳がんかもしれないって考えてしまって…」と話してくれるんです。
その時点で患者さんは自分から病名を言うんですよね。怖い言葉を人から言われるのと、自分で言うのとでは、受け止め方がぜんぜん違います。

女性

検査の結果を伝えるときも「よくありませんでした」と伝えるようにしています。
Good(よい)、Not(よくない)なんですよ。Bad(悪い)ではない。
患者さんは自分で言葉の意味を考え、表情で状態を理解したかどうかが判ります。そのあと、何か聞きたいことはありますか?とボールを渡すと「助かりますか?」「治りますか?」「入院しますか?」「抗がん剤は必要ですか?」とか自分の気になることを質問してくる。

「まだ子どもが小さくて」とか「家族にも罹患した人がいて」とか、自分のなかにあるものをあらかた話し終えた後で、僕が病状と治療の説明をします。そうすると患者さんは聴いてくれ、理解してくれる。

聴くっていうのはコミュニケーションの基本ですよね。
怖い言葉からはじめない。その人の知りたいとを、まず聴く…しゃべるより聴くほうがずっと難しいですね。訓練も必要です。
僕も臨床心理士の本などでコミュニケーションを勉強して、しっかり聴くようになってから「だから~…」がなくなりました。1年かかりました(笑)

患者さんの言ってることを、医者は18秒で遮るという研究結果があります。
医師も病状について治療について、伝えなきゃいけないことがたくさんあるから、焦ってしまうこともあると思いますが、聴く訓練が必要ですね。

医師が伝えたいことと、患者さんが知りたいことが違う場合は、患者さんは理解できなくなってしまうケースが多いです。
極端な話、患者さんが聴くキャパがない状態なら、また別の日に話せばいいんですよ。患者さんも医師に伝えてくれていいと思います。

患者さんのために、と一言で言っても、いろんな方法があります。僕は「未来」の患者さんのためにやるべき研究に取り組み、「今」の患者さんのためにコミュニケーションを勉強をしています。

>>第3回に続きます。

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