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装うと、心が元気になる。
日常の中で新しい服に袖を通すときや、お気に入りの一枚を着るとき、気分が上がります。世界中の人に「お気に入りの一枚」を提供し続ける、世界的なファッションデザイナー コシノジュンコさん(以下JK)と、スヴェンソンの兒玉社長に、装いと心の繋がりについて語っていただきました。
外見の変化があって、どうしても気分が沈みがち…そんなときこそ、自分のためにおしゃれしてみませんか?
おしゃれは、心を輝かせるスイッチ
兒玉 おしゃれすると気持ちも前向きになる気がします。
JK 私の母の話なんだけどね、母はとっても汗っかきだったの。
ヘアスタイルも金髪に染めてたおしゃれな人だったんだけど、美容室から帰る途中で汗をかいて、髪の毛がぺたーんとしちゃって。それがすごく悩みだったみたい。
だから母にスヴェンソンのウィッグを買ってあげたのは、すごく親孝行だったと思ってる。ウィッグを買ってあげたら、そこから自分でブランド立ち上げて、どんどん活動的になったの。歳を感じさせないって、こういうことを言うんだって思いましたね。
装うと元気になるのは心配事が減るから、内側から輝きだすのよ。素敵なウィッグがあれば、いつもの自分でいられる。「私、大丈夫!」って前向きになれるの。
兒玉 がん患者さんからも、抗がん剤治療で脱毛が進み、気分が落ち込んだときは、外に一歩も出られなかったとお聞きしたことがあります。でも「ウィッグを着けて何ヶ月ぶりかに外に 出たとき、空気がとても美味しかったです」と言われて…それを聞いたときは、この仕事をしていて良かったと思いました。
JK そうそう。似合うウィッグがあったら外に出たくなるのよね。鏡を見て自分が素敵だったら嬉しいじゃないですか。
お化粧もして、お洋服も合わせて、外に出ようという気になるの。前向きな気分になるってとても大事。
特に女性はね、髪の毛が抜けるって、こんなに辛いことないと思うの。だから抜ける前に、もちろん病気じゃなくても、ウィッグを持っていれば良いと思う。いつなん時、何があっても対応できるでしょう?
何かあってからデパートでも通販でもどこでもいいからって慌てて買うと、そりゃ似合わないに決まってるんですよ。それこそいかにも「かつら」になっちゃうの。だから健康で余裕があるときに買って準備しておくのが良いと思ってる。
コシノさんとウィッグの出会い
兒玉 コシノ先生は、本当にウィッグがお好きなんですね。
JK 歳をとると自分の髪の毛も変わってくる。前髪は薄くなって、後ろの毛にクセが付いてきたり…。
普段は自分で見えないところだから、不意に写真を撮られると「これ私?」ってなるくらい。ヘアスタイルにものすごく気を遣うんですよ。
でもウィッグだと、忙しい朝でも楽にヘアスタイルが決まるの。特に私は海外に行くことが多いでしょう。海外の美容院はダメ。やっぱり日本の美容院がいいんだけど、スケジュールが合わないんですよ。定休日もあるし、行きたい時間に営業していないことが多くて。
だから私らしく仕事をバリバリできているのは、ウィッグのお陰なの。
兒玉 コシノ先生ご自身はもう長きにわたりウィッグを愛用していただいてますよね?
JK 1996年にコレクションの発表でキューバに行ったとき、ドレッドヘア(パーマをして三つ編みを絡めた髪型)にしたの。
帰国して2週間後の東京コレクションまで保たせようとしたけど、元々の髪質もあって1本取れ、2本取れ…だんだん取れてきちゃって。それでも何とかコレクションを終えて、さあ全部取ろう!と思ったら、ガバッと抜けちゃったんです。怖いくらいの量で、びっくりして慌てちゃって。そのときにスヴェンソンのウィッグに出会ったの。
似合うウィッグを見つけるには?
兒玉 自分に似合うヘアスタイルを選ぶのも大事ですよね。
コシノ先生は髪型がいつも素敵ですが、一般の方が自分に似合うウィッグを見つけるには、どうしたらいいんでしょう?
JK 女性の場合は色んなスタイルができるから、選ぶと迷っちゃうわよね。
いつもの自分になってください。もっと言うなら、ちょっと若いときのヘアスタイルにするといいと思います。
ウィッグ着けて変身するんじゃなく、一番美しかった頃の自分のヘアスタイルに戻れば良いのよ。そうすれば、心も若々しくいられるから。
がんに対しての取り組み
JK 以前、知り合いの画家さんから、パリコレでモデルが着る服に絵を描きたいってお願いされたことがあってね。絵の具も匂うし現実的じゃなかったから、悪いなぁと思いながらお断 りしたんですけど、しばらくして連絡もらったら、がんで余命宣告されたって。
だから最期の願いを聞いてあげたくて、うちのブティック(東京・青山)の床にビニールを敷いて、そこで絵を描いたんですよ。終わったあと「1日お店休めば匂い消えるかな」と思ったんだけど、結局1日じゃ消えなくて4日閉めました。思った以上の期間だったけど、願いを叶えてあげらてよかったわ。
スヴェンソンも店舗でイベント開いてるわよね?
兒玉 がん哲学外来ですね。全国のレディス店舗で開催しています。
順天堂大学の樋野興夫先生がはじめられた取り組みなんですが、医療者と患者さんが同じ場所で話せる会です。参加者はうちのお客さまじゃなくても、患者さんじゃなくてもいい。患者さん、地域の人、医療者…がんについて垣根なく話せる場です。
JK 私も(神楽坂女性)合唱団の団長してますけど、歌でもおしゃべりでも声に出すって大事。元気になるの。
笑ったりしゃべったりするエネルギーは、そのまま生きる力になっていくんですよ。
誰かに会う予定があると、オシャレするしね。
兒玉 そういう意味でも交流の場(コミュニティ)って大切ですよね。
JK 病気は特別なことじゃなくなっていく時代だから、あるのが当然くらいじゃないといけないですよね。
特に女性はおしゃべり好きだし、コミュニケーションをとれる場があるってことは大事ね。
兒玉 この会に参加される患者さんは、がんに罹患して、不安だけど家族にも誰にも相談できずに悩んでいる方が多くいらっしゃいます。同じ境遇の方や医療者の方とお話しすること で、共感したり、情報を受け取ったりして「自分だけじゃない」って思えるような場です。
JK 自分が病気になったり、何か悩んだりすると、どうしても視野が狭くなってしまう。自分の人生を揺るがすことだから当然ですよね。
病気のことだけで頭がいっぱいだと悶々としてしまうけれど、他の人と会って話を聴くことで、視野が広くなって気づきが生まれるよね。
すぐに役立つとか分かりやすいものじゃないかもしれないけど、大きな希望になりますよ。
2人に1人ががんになる時代
私たちにできること
兒玉 現代は2人に1人ががんに罹患すると言われています。10人に1人や100人に1人の確立じゃない、誰にでも起こりうること。そう考えると、コシノ先生が仰るように「備えておくこ と」は大切かもしれませんね。
JK 自分に自信を持てると、気分が変わります。治療にも前向きになりますよね。私は普段からウィッグを使っているけど、病気になったときも安心して、治療のことだけ考えられると思う。
おしゃれ心はどんなときであっても生まれるもの。無理はしなくていいけれど、芽生えたら大切にして欲しい。心が前向きになっている証拠だから。
兒玉 楽しんでウィッグを着けていただきたいっていうのはありますね。
スヴェンソンのウィッグは、病気で治療が大変な時期でも、できるだけ快適に過ごしていただけるようなつくりになっています。ウィッグで病気が治るわけではないですが、心を元気にして、治療や生活に前向きになる、というところはお手伝いできるのかな、と。
あとは患者さん同士のコミュニケーションの場の提供を継続してやっていきたいです。普段の自分のままでいられて、外にも出られて、交流もできる。そんな場所をつくれたらと思っています。
番外編!
2020年 東京五輪について
JK スヴェンソンは卓球の事業もやっていますよね。
卓球は打てば返ってくる。返ってくるとまた打つ…そうやって成長していく面白いスポーツ。私は高校時代の1年間だけ卓球部だったんだけど、それを浅葉さん(アートディレクター)に言ったら、TV番組で福原愛ちゃん(当時6歳)と卓球やることになっちゃって。TVで卓球やるなら練習しなきゃっていうので、兒玉社長に練習つきあってもらって…社長は全国7位なんですよね。
兒玉 いえいえ、昔のことですから(笑)
卓球関係の施設(練習場・飲食店)を何店舗か運営していますが、最近は星野リゾートが運営するOMO5東京大塚に、卓球barをオープンしまして。ロゴマークをコシノ先生にデザインしていただきました。
JK そうそう、ちょうど昨日オープニングイベントにも参加したの。東京五輪が近いから、一般の人でも気軽にスポーツが楽しめるのはいいですよね。
兒玉 はい。スヴェンソンには丹羽孝希選手(2016リオ五輪 団体銀メダル)が所属していますが、2020年1月に代表選手が決まることになっています。
JK 前回の大会から卓球界盛り上がってるよね~!いまTリーグもできて、日本の選手も力が拮抗してるし、TVで試合中継してると、わりと長いこと観ちゃうのよね。TVにかじりついて (笑)
兒玉 コシノ先生は東京五輪の運営にも関わられていますよね?
JK 文化教育委員をしてます。仕事は主に審査委員ですね。
オリンピックが始まるまでと、オリンピックとパラリンピックの間の2週間に、どんなイベントを開催するかを決めています。私も今から楽しみです。
19歳で装苑賞を受賞。
世界各地でファッションショー開催し文化交流に努める。文化功労者顕彰。日本経済新聞朝刊 8月「私の履歴書』。
毎週日曜日17時よりTBSラジオ「コシノジュンコMASACA」放送中。
明治大学卒業後、日産自動車( 株)に入社。1994年(株)スヴェンソン入社、2015年より現職。
医療用ウィッグの製造・販売のほか、コスメティックスサービス、卓球に関する事業(練習場・飲食店の運営)を展開している。