「治療しながら仕事はできる?」「生活はどう変わる?」「いくらかかるの?」……がん治療をスタートするとき、さまざまな不安がこみあげてきます。
治療中は医療費以外にも何かと費用がかかりますが、見た目を整えるための出費は後回しになりがち。でも、ふと鏡をのぞいたとき、治療前と変わらぬ自分でいられたら、すこし安心できませんか?女性にとって外見をケアすることは、心を支える大きなチカラとなります。
そんな外見に関わる費用をサポートしてくれる助成金があること、知っていますか?今回は東京都で初めてウィッグや補整下着に助成金制度を施行した、港区の取り組みをご紹介します。
外見ケアにも助成金を!という動き
仕事に行ったり、お出かけしたり、治療前と変わらない生活を送るための外見ケアとして、ウィッグや補整下着があります。これらのアイテムは、医療保険ではまかなわれないのが現状です。しかし、外見ケアに必要なものには高価なものもあり、がん治療をする患者さんの負担を少しでも減らすための制度を設ける自治体が増えてきました。
がん治療にともなう外見ケアの助成金制度を実施している自治体は全国で47カ所※。なかでも人口密集都市・東京では、2017年5月、港区が都内で初めて制度を開始しました。開始のキッカケや運用の状況、患者さんは実際に活用できているのかなど、助成金のホントのところをMassel編集部が「港区みなと保健所健康推進課」で取材してきました!
※2018年2月スヴェンソン調べ。
がん患者さんの外見ケアサポート
助成金をはじめたキッカケ
―まず、制度をはじめたキッカケを教えてください。
港区では「港区がん対策推進アクションプラン」という計画を立て、がんの予防、早期発見・治療の啓発だけでなく、患者さん本人の生活の質(QOL)の向上も目指しています。その一環として「患者さんが社会で活躍し続けるために役立ててもらいたい」という思いでウィッグ等の助成金制度を開始しました。
さらに、港区がこの制度開始に積極的に取り組んできたもうひとつの理由があります。現・港区長は、かつて自身ががんを患ったこともあり、患者さんへの支援には、強い想いがありました。こうしたトップの理解があったことも、大きかったですね。
―制度をはじめるにあたり、スタッフも相当勉強されたのでは?
たくさんあるグッズの中でも、どこまでを助成金の対象とするのか。金額は、いくらくらいまでと設定するのか。恥ずかしながら、抗がん剤などの副作用の知識も、患者さんが求めるものへの理解も足りない状況だったので、スタッフみんなで猛勉強しました。その意味では、スタッフの中に医師職が1名いたことが心強かったです。
当初は患者さんからどんな問い合わせがくるのかも想定しづらくて大変でしたが、問い合わせのあった事例をスタッフ間で共有し、Q&A集を作成するなどして体制を整えています。
実際の利用と用途について
―どのくらいの利用者を見込まれていますか?
制度を開始してから、利用者が年々増加し、2019年度は120名を見込んでいます。
―助成金をもらうとなると、手続きが大変なイメージですが…
助成金は税金からの支出になるので、申請書類を書いてもらったり、領収書を添付してもらったりと、どうしても一定の手続きが必要です。ただし、治療中の方に利用してもらう制度なので、手続きをできるだけ簡単にできるように工夫しました。
港区の場合は、申請書類を1枚の用紙にまとめ、郵送で提出できるようにしています。また、購入の翌日から1年以内に申請すれば助成金が受けられるシステムになっています。
療養中は治療が第一優先。「こんな書類書く余裕なんてないよ……」という患者さんの気持ちも理解できますので、まずはゆっくりと療養されてから申請してください。
―実際、いくら助成されますか?助成されるのは1回だけ?
港区の場合は3万円または、購入経費の7割のいずれか低い額を助成しています。回数は、港区在住でがんと診断され、現在治療を行っている方、一人につき1回です。助成金の上限金額は自治体によって違いますが、1万円から3万円程度の自治体が多くなっています。1回限りとさせていただいているのは、なるべく多くの人にこの制度を利用していただきたいといった理由からです。
助成対象品につきましては、いろんな考え方もあると思いますが、スヴェンソンのウィッグも含めて、1回買ったら比較的、長期間使えるものを想定しています。必要なものなのだけど、ちょっと高価で手が出しにくいようなものを買うときに、少しでも助成してくれる制度があれば…といった想いに応えたいと思っています。
―申請できるのは女性だけ?男性はどうですか?
ウィッグや補整下着が助成対象と聞くと、女性だけ?とイメージしがちですが、そんなことはありません。対象は『港区に在住で、がんと診断され治療を行っている人』なので、男性の方の申請ももちろん可能です。
―ウィッグ以外に、港区で助成の対象となるものを教えてください
港区ではウィッグはもちろん、補整下着やシリコンパッドなど、外見の変化に対応する胸部補整具も対象にしています。
日常生活に使用するこうしたものを対象とすることで、社会生活や仕事への復帰などを応援したいと思ったからです。対象品を決めるにあたり、ウィッグはがんの種類や性別を問わないので、すぐに意見がまとまったのですが、補整下着やシリコンパッドなどを対象にするのかは、いろいろと悩みました。これは主に乳がんの術後のケア用品で、対象は女性になります。男女間で不公平が生じないか、という声も出たのですが、女性にとって乳房の手術跡をケアすることは、髪の毛と同じくらい重要です。
全国的にもまだ珍しいことですが、女性の社会進出を応援するためにも、港区では対象に入れています。
―「これは助成の対象になりますか?」という問い合わせも?
よくありますよ。すごく悩みますね。患者さんをサポートしたいと思って始めた制度なので、相談されたらなるべく応えたいと思っています。一方で、公費を支出するので、対象品になるかどうかについては、慎重に見定めることが必要です。基本的に、患者さんの日常生活に必要なものであればOKです。ウィッグは、装着に必要なネットまでを対象としているので、比較的わかりやすいのですが、胸部補整具は、種類が多岐にわたります。カタログ収集やお店に足を運ぶなど、日々、情報収集をしています。
―これからどんな制度にしていきたいですか?
そもそも何を買ったらいいのか、ということを迷われている方もいるので、気軽に相談できるような体制をどんどん広げていきたいですね。港区の場合、いろんな病院や民間企業とも連携して、相談窓口を設置しています。単にお金を出すということではなく、がん患者さんを支える制度を作りたい、というのが立ち上げ当初からの目標です。
―港区は医師会、薬剤師会などと連携したイベントも活発な印象です
連携している病院や民間企業、NPO団体などに協力してもらい、2016年よりがんに関する啓発イベントを開催してきました。
2016年は、東京都と共催して小さいお子さんを持つ若いファミリー層を対象に、がんの予防、早期発見・治療に重きを置いたピンクリボンの啓発イベントを開催しました。
チラシのPDF
(flyer.pdf)からのダウンロードもできます
2017年からは、がん患者さんとその家族への支援等について、区民と一緒に考えていくイベントを行っています。外見ケアに関する講演や、がんを克服された方のダンスの披露なども行いました。スヴェンソンさんにも出展いただき、ウィッグの展示をしてもらっていて、今年も10月5日(土)に開催します。
港区のがん検診率は高く、みなさん、とても健康に対する意識が高いと感じています。また、患者やその家族への支援についての関心も日々、大きくなってきていると思っています。それらに応えるかたちで、私たちも理解を深め、より効果的な事業を進めていかなければと思っています。
がん患者さんや家族のサポート施設
今や一生のうち、2人に1人はがんにかかるといわれている時代。がん治療中の方をサポートしたいという動きは、国をあげて全国的にどんどん広まっています。治療中も、今と変わらない生活を維持するためのサポート体制は日々整いつつあります。
あなたの住む地域にも何かの助成金制度があるかもしれません。ぜひお近くの役所や保健所に一度問い合わせてみてください。
港区は、2018年4月がん患者さんやその家族のための拠点「港区立がん在宅緩和ケア支援センターういケアみなと」をオープンしました。
地域で在宅緩和ケアを支えられるような体制の整備を目指すこの施設は、がん相談をはじめアピアランス(外見)相談や、患者さんたちがくつろげる場所の提供など、多方面にわたるサポートが期待されています。
ご興味のある方はぜひ一度訪れてみてはいかがでしょう。
素朴な疑問!港区助成金Q&A
Q:申請資料はどこでもらえますか?
A:港区みなと保健所、港区立がん在宅緩和ケア支援センター「ういケアみなと」でお渡ししています。
港区のホームページ
(http://www.city.minato.tokyo.jp)からのダウンロードもできます。
Q:住んでないけど、港区で働いているから助成金はもらえる?
A:港区在住の方に限ります。
Q:助成対象かわからないのだけど、どうすればいい?
A:日常的にお使いになるものであれば、基本的に助成したいと思っております。胸部補整具については、様々な製品があるので、どのように使われるものなのかを伺わせていただきます。まずは、お気軽にみなと保健所にご相談ください。
Q:申請してからどれくらいでもらえますか?
A:1カ月半くらいです。
Q:港区に予想以上の申請があって、予算を超えてしまったら申請できない?
A:予算の範囲内での対応となりますが、状況に応じて予算の増額も検討したいと思います。
<お問い合わせ>
港区みなと保健所健康推進課健康づくり係
ウィッグ等購入費用助成金受付担当
電話:03-6400-0083(直通)