~ がん患者さんの生活に役立つ情報 ~

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名医の診察室 福井済生会病院 宗本義則 医師<後編>

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信念をもって仕事に向き合い患者さんのために行動する、そんな名医を訪ねてお話を伺う『名医の診察室』。前回は「集学的がん診療センター」の開設や運用について伺いました。後編の今回は、地域病院との連携や社会全体で患者さんをサポートしていく取り組みについて、そして2代目理事長に就任した「がん哲学外来」について深掘りしていきます。

地域病院と連携しながら患者さんをサポート

集学的がん診療センターは、地域の他病院と連携もしています。
本来なら主治医に生活やお金の相談、あるいは質問ができればいいのですが難しいときもありますよね。医師は医療やがんの専門ですが、就労やお金の専門ではないですし。それに治療を最優先しなければならないので、あんまりゆっくり患者さんと話す機会がないんです。

患者さんをサポート

そんなとき、他病院で治療されている方も、集学的がん診療センターに来ていただくことによって、専門のスタッフが患者さんのお悩みや相談ごとをお聞きし、その内容を主治医にフィードバックする、ということをしています。「患者さんはこういうことで悩んでいます。だから治療方針もそこに留意してください」と、センターから主治医に伝えることで、患者さんにとって大切なものに配慮した治療方針が提案できます。

インターネットでの相談

集学的がん診療センターへの訪問や相談は、いつでも、どこの方でも、無料です。近年は新型コロナウイルスの影響もあり、電話やインターネットでの相談も行っていますが、やはり対面で顔を合わせてお話する方が、本音や細かいことがお聞きしやすいなと感じています。

がん患者さんへの社会的サポートの充実を目指して

ある患者さんで、抗がん剤をやりたくないという方がいらっしゃいました。身体の状態についてもお話ししたんですが、とにかく断るんです。理由を詳しく聞いてみると、お金のことが原因でした。ソーシャルワーカーが介入し、経済的な負担を軽減するさまざまな制度を使い、抗がん剤治療ができました。そのとき「社会的なサポートが充実してないと、いい医療ができない」ということがよく分かりましたね。

宗本義則先生

社会的なサポートは就労の面でも重要で、仕事への考え方は患者さんによってさまざまです。生活費のために仕事をしている、という方もいれば、仕事が生きがいで人生の一部だという方もたくさんいます。
以前は、とにかく治療が第一。治療中や治療後の生活がガラリと変わっても、まず治療を最優先させる、という考え方でしたが、最近は患者さんの生活に合うような治療を、医療者から提案する時代になっています。

治療前と変わらない生活を送れる社会へ

がん治療を理由とした、職場における不当な配置換えや解雇、という事例も以前は多く耳にしました。しかしSNSの発達や社会のなかでがん罹患者が増えたことにより、そのような対応をする企業も減ってきた印象です。
企業の産業医をはじめ、人事に関わる方が前向きに集学的がん診療センターに情報を求めにやってきていて、患者さんが治療をしながら働くための連携が盛んになっています。

手をつないでいる様子

がんはいまや2人に1人がなる病気で、特別なことではありません。がん患者さんが治療しながら仕事したり、罹患前と変わらない生活をできるのが、当たり前の世界になればいい。そのためには集学的がん診療センターだけでなく、いろんなサポートが必要です。社会のみんなで理解を深め、そういう世界を作っていくのが理想です。

がん哲学外来メディカルカフェの活動

2008年に順天堂大学の樋野興夫先生が、がん哲学外来という概念を打ち出し、医療者と患者の垣根を越えて語らう場として、全国に普及活動を行ってきました。集学的がん診療センターでは、2011年からがん哲学外来メディカルカフェを開催しています。
通常の診療ではなかなか触れられない、患者さんの人生観や治療に対する考えを聞けるということで、私たち医療者にとっては、診療とは違った一面でがん治療にプラスになっています。医療者に想いを共有できるメディカルカフェは、患者さんにとっても非常に重要な場で、集学的がん診療センターではこころのサポートの一環として取り組んでいます。

コーヒー

メディカルカフェを運営するうえで、医療者ができないサポートを担う企業の協力が重要です。診療センターの説明でチーム医療のお話をしましたが、その一員として企業が入って、一緒に患者さんをサポートするイメージです。
ウィッグやメイク、ヨガ…各自の得意な分野を患者さんに提供して、社会全体を巻き込んで活動してこそ意味があると思っています。より多くの企業や人が関わることで理解が深まり、浸透していく。世界をガラリと変えることは難しいですが、時間をかけて普及していったものこそ簡単になくならないと思うので。

二羽の鳥

がん治療や診療のなかで、メディカルカフェのような「患者さんが医療者に気持ちを伝える場」が当たり前に組み込まれる社会を目指しています。そのためには、我々のような治療に関わるスタッフが、患者さんの想いを傾聴することの大切さを認識していく、医療現場の教育も必要になると思います。
がん哲学外来は、今まで医療の中には足りなかった分野を伸ばしている。双方にとって心の拠り所になっていくものを、みんなで育てていく活動だと思ってますね。

(プロフィール)
宗本義則 医師
福井済生会病院 集学的がん診療センター顧問。長年外科医としてがん患者に向き合うなか、社会的サポートの重要性に気づきチーム医療を集約した集学的がんセンターを発足。院内に初めてハローワークを設置するなど「治療しながら当たり前に生きていく」活動を全力で推進している。2022年、がん哲学外来2代目理事長に就任。

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