がんを告知されたとき、病気とともに考えなくてはならない「お金のこと」。この連載では、治療にかかる医療費や、医療費以外でかかる費用、医療費や生活をサポートしてくれる公的制度をご紹介していきます。
また、記事の内容をダイジェストで説明する動画もご用意しました。記事をじっくり読むのが難しい方は、そちらをご覧ください。この情報を必要としているすべての方へ、届きますように。
安心してがん治療をするために、知っておいてほしいこと
がんを告知された方が、診断時~治療後を通して感じる「お金のこと」への不安。この「お金のこと」には、治療にかかる医療費のこと、治療中~後の就労のこと、がんによる外見や生活に対応するためのことなど、いろいろな要素が含まれます。
現代では、高額になりがちな医療費をサポートしてくれるさまざまな公的制度があります。
治療費を全額保障して自己負担ゼロ…とはいかずとも、金銭的な負担を軽くして、安心して治療を受けられる足がかりになります。しかし、この公的制度は「セルフサービス」が基本。つまり「どのようなサポートがあるか」「自分が対象か否か」知らないとサポートを受けられないのです。
いま、この記事を読んでくださっている方のなかには、がんを告知され、身体もこころも大変な時期を過ごされている方がいるかもしれません。しかし、治療が終わっても人生はつづきます。不安のない治療生活を送ることができるよう、この連載では、がん治療に関わるお金や、制度について、わかりやすくご紹介していきます。
お金のことを考えたり、学んだりするのは、誰もが得意なわけではありません。難しい制度の話になれば、普段の生活では聞きなれない言葉も出てきます。記事をじっくり読むのが難しい方のために、動画をご用意しました。動画だけ気楽に観るのもよし、気になった部分を記事をじっくり読むもよし。お好きな方法で情報を受け取っていただけたらと思います。
乳がん患者特有の「お金のリスク」
乳がんを告知されることが多い年代は、40代後半から50代前半くらい。この記事を監修している私も40歳で乳がんの告知を受けましたが、そのタイミングはまさに働き盛り。住宅購入や子どもの学費など、大きな資金のニーズが重なりやすい時期でもあります。
現代では医学が進み病状に合わせたさまざまな薬がありますが、医療費は高額になりがちです。手術や抗がん剤を終えたあとも、定期検診やホルモン治療が5年から10年程度続きます。さらに治療の他にも、術後の状態によっては乳房再建手術を検討したり、仕事や社会生活を続けるための外見のケア、健康を維持するための食生活の見直しなど、出費が多くなる可能性があります。
抗がん剤や入院・手術で、どのくらいのお金がかかる?
まずは保険や制度の話は置いておいて、乳がんの治療にどの程度のお金がかかるかみていきましょう。手術や抗がん剤治療を経て、治療開始から約1年くらいでホルモン治療が始まり、10年程度つづくのが乳がん治療の平均的なスケジュールです。
さまざまな部位のがんがあるなかでも、乳がん治療にかかるお金の平均は約62万円。私がFPとして患者さんにお伝えするときは「年間50万から100万ぐらいが目安ですが、ケースバイケースですよ」とお話しています。理由は、発見時の病状(ステージ)によって金額が増減するからです。がんが進行していれば治療期間が長くなり、治療費も上がるので、医療費の観点でも早期発見は重要になります。
医療費以外にもお金がかかる?
がん治療にかかるお金をもう少し細かくみていきましょう。
日本には「国民皆保険制度」があり、医療費は基本3割負担。事例でご紹介するAさんは、治療にかかわる検査のほかに、セカンドオピニオンを2回行っています。セカンドオピニオンは3万円/回で、保険適用外の自己負担になります。
診察や検査などで約18.6万円、入院・手術で約40.1万円、抗がん剤治療(6ヵ月)、放射線治療、ホルモン療法…ひと通りの治療をして約1年間に約138万円かかっている計算になります。乳がん治療(抗がん剤や入院・手術)にかかるお金の平均は約62万円ですが、ケースバイケースであることがわかりますね。
さらにこの金額とは別に、入院時の差額ベッド代(個室等の料金)、通院時の交通費、ウィッグや帽子などの費用が加算されます。患者さんそれぞれのライフスタイルやお仕事の状況もありますが、がんの治療以外でもお金もかかってくることを覚えておきましょう。
このように、高額になる医療費や、治療中~後に生活していくためのお金の制度を、これからの連載でご紹介していきます。次回の更新をお待ちください!
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取材・編集 Massel編集部 佐藤
1969年、富山県出身。
1998年、独立系FPとしてキャリアをスタート。現在は、各種セミナーや講演・講座の講師、新聞・書籍・雑誌・Webサイト上での執筆、個人相談を中心に幅広く活動中。
2009年、40歳で乳がんに罹患、がん患者が陥る経済的リスクを体感し、FPとしてサポートする活動を開始。聖路加国際病院のがん経験者向けプロジェクト「おさいふリング」のファシリテーターや、一般社団法人「患者家計サポート協会」顧問、NPO法人「がんとくらしを考える会」お金と仕事の個別相談事業の、城西国際大学・経営情報学部非常勤講師をつとめる。