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【連載1回】スヴェンソン主催・遺伝性がんセミナー
大川看護師 講演
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2019年8月に、医療用ウィッグメーカーのスヴェンソン主催による遺伝性がんについてのセミナーが開催されました。講師にお招きしたのは、聖路加国際病院 オンコロジーセンター遺伝診療部で、遺伝性がんに関する高い知識と豊富な経験をもとに、治療中の患者さんの相談受付・サポートを行う大川看護師。
今回は大川さんがお話してくださった講演内容の一部と、実際の遺伝がんの患者さん体験談を3回に分けてご紹介します。

ティータイムイラスト

2つの意味を持つ「遺伝」

「遺伝」という言葉は皆さんご存知かもしれませんが、科学的に、そして医学的に正確に理解している方は多くありません。「遺伝」と日本語で書くと漢字2文字ですが、英語で表記すると5つ以上も種類があります。

カエルの子はカエル。トンビは鷹を生みませんが、人間のお父さんとお母さんからは、それぞれに少しずつ似た子が生まれます。それは「inheritance」「heredity」、日本語で言うと継承性。親の特徴を子に受け継ぐ、という意味合いです。だいたいの方は「遺伝」と聞くと、このことを想像しますが、実はもう一つ重要な意味があります。
同じ親から生まれた兄弟でも、まったく違う場合がありますよね。背の高さ、顔の造作、親ではなく祖父母に似ている場合もあります。「diversity」「gene」、これは個々の多様性を意味します。世界にはたくさんのヒトがいますが、遺伝情報がまったく同じヒトはいないし、一卵性双生児であっても、個々の多様性はあります。

私たちが普段使っている「遺伝」という言葉には、「引き継がれる」という意味と「個々の多様性」といった意味がある、ということを覚えてください。

子猫

遺伝性がんってどんなもの?

2013年、世界的に有名な女優アンジェリーナ・ジョリーが遺伝検査をし、両胸の乳房と卵巣の手術を受けました。とても話題になりましたよね。このことで「遺伝するがんがあり、対策もできる」ということが、世間に広く知られるようになりました。

ピンクリボンと女性

しかし一方で「乳がんは遺伝するもの」「乳がん以外に遺伝するがんはない」と誤解された側面もあります。もちろん乳がんだから遺伝する、というわけではありません。
遺伝するがんは、遺伝性腫瘍と言います。遺伝性腫瘍は、すべてのがんのなかの約10%。たとえば乳がん患者さんは年間9万人と言われていますが、そのうちの9,000人くらいは遺伝性ということになります。大腸がんや胃がんも同じくらいの割合です。

ピーマンを持つ女性

遺伝性腫瘍ではなく親子、兄弟姉妹で同じがんに罹患する方は結構います。先程「がん患者全体の10%が遺伝性」という話をしましたが、すべてのがん患者さんを集めると、親子または兄弟姉妹で同じがんに罹患した方は全体の約20%存在します。差分の10%は何かというと偶然です。あるいは、同じがんになった家族は食べているものや住んでいる環境が似ている場合が多いので、それが要因と考えられます。例えば、喫煙習慣のある家庭では、親の喫煙により子どもも喫煙の習慣がつきやすくなります。親子で肺がんとなった場合、それは遺伝でしょうか?違いますよね。

食卓

身近に同じがんの人がいるから…と気になるようであれば専門家への相談をお勧めしますが、そう敏感にならなくても大丈夫。遺伝性腫瘍というのは、そんなに多いものではありません。
また、「遺伝性腫瘍はタチが悪い」「治りにくい」と言われることについても、まったくそんなことはありません。一般的な胃がん、大腸がん、乳がんと一緒です。早く見つけてきちんと治療すれば治ります。

手を握る医師と患者

遺伝性がんと一般的ながんの違い

がんは簡単に言うと細胞が増えすぎる病気。ヒトの身体には1㎡あたり、細胞は何個までと決まっています。その決まりを超えて細胞が増殖するのががんです。私たちの身体はがんにならないようにする機能が備わっていて、細胞が増えすぎるとがん抑制遺伝子が働き、がんにならないようにしてくれます。

遺伝性腫瘍というのは、この抑制遺伝子の働きが鈍いことを言います。本人の喫煙や食生活の問題ではなくて、親の代から受け継がれてきた、生まれたときから決まっているもの。この引き継がれた遺伝子の働きが鈍く、発がんすることを遺伝性がんと言います。

がん抑制遺伝子は身体と一緒で老化します。日本人のがん患者は増加していますが、ほとんどが高齢者です。それに対して遺伝性腫瘍は生まれつき遺伝子の働きが鈍いので、20~30代で発がんする方が多いです。

遺伝性がんの特性イラスト

遺伝性腫瘍と一般的ながんは発がんのメカニズムが違うので、適した医療を受けるというのがとても大切です。まずは専門家へ相談しましょう。
本当に自分は遺伝性腫瘍なのか。そうであれば、どういった医療が必要になるのか。率直に相談して、一緒に考えてくれる人を見つけましょう。
遺伝性腫瘍は普通のがん検診とは違って、「なりやすいがん」に対しての検診があります。

>>連載2回目は、遺伝子を使った新しいがん治療と今後の課題について。

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