アピアランスケアとは

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アピアランスケアとは、
「医学的・整容的・心理社会的支援を用いて、
外見の変化に起因するがん患者の苦痛を軽減するケア」
のことを指します。

アピアランスケアは、国立がん研究センター中央病院の外見関連支援チームが2012年から 提唱している造語。
国立がん研究センターでは「がんやその治療に伴う外見変化に起因する身体・心理・社会的な困難に直面している患者とその家族に対し、診断時からの包括的なアセスメントに基づき、多職種で支援する医療者のアプローチ」と定義しています。

誰もが自分らしく生きるために

アピアランスケアとは

働くがん患者は44.8万人(※)いるとされています。就労支援と合わせて、がん患者が治療を継続しながら社会の中で「自分らしく」いられるために、また他者との関わりに不安を感じないように取り組みを進められているのが、外見変化の苦痛を軽減する「アピアランスケア」です。

私たちスヴェンソンは、がん患者にウィッグを提供する立場から、日々患者さんのお悩みに耳を傾けてきました。社会生活を送るなかで外見の変化が苦痛であること、ケア方法の情報収集が難しいこと、誰に相談したらよいかわからないこと…など、患者さんお一人おひとりが切実な悩みを抱えています。

がん治療に伴う外見の変化は、患者の自己イメージを著しく低下させたり、社会的な人間関係に大きな影響を与えたりもします。そこで2021年から公開している本サイトをさらに充実させてリニューアルいたしました。

医療従事者の皆様に、広くアピアランスケアの基本を知っていただき、さらに実践的な情報を得ていただくことで、がん患者のQOL向上に貢献し、「患者さんが自分らしく安心して社会生活を送る」未来に寄与できることを願っております。

令和5年3月に厚生労働省が発表したガイドラインより。働くがん患者は男性18.6万人、女性26.2万人、計44.8万人(2019年の「国民生活基礎調査」を基に推計)

なぜ外見ケアが大切なのか?

北野 敦子先生

聖路加国際病院:腫瘍内科医
日本乳がん学会:乳腺専門医・指導医
日本臨床腫瘍学会:がん薬物療法専門医

若年性乳がんサポートコミュニティPink Ringにてチーフメディカルアドバイザーを務める。スヴェンソン主催「医療者とがん看護ケアを考えるセミナー」(医療者対象)にて講演。

 

地域と連携した外見ケア支援の重要性

抗がん剤治療による脱毛やシミ・くすみなどの皮膚変化は患者さんの生活の質に大きく影響することから、外見ケア支援の重要性がわかってきました。
がん患者さんは外見ケアをすることで、社会と積極的につながり、健康的な生活を送る意識が高まり、ストレス耐性がつき医療(治療)に前向きに向き合えるという連鎖が起こります。外見ケアは患者さんの「社会的健康」を支えるために、私たち医療者が支援することが望ましい1つの「ケア」です。

しかしながら、多忙な医療現場において、患者さんが満足する外見ケア支援を実践することは難しく、「支援したい」と思いつつも十分な提供体制を整えている医療機関は少ないのではないでしょうか。さらに新型コロナウィルス感染症の影響で、患者さんへの非医療的な支援は滞っています。これからは今まで以上に地域社会と協力し、がん患者さんの外見ケア支援をサポートする体制作りが必要です。

清水 研先生

がん研有明病院 腫瘍精神科部長
日本精神神経学会専門医

精神科医として対話したがん患者、および家族は4,000人を超える。スヴェンソン全国代表者会議にて、がん患者さんの心理とその対応について講義

外見はこころの芯につながっている

だいぶ前のことだが、40代の女性が私の外来に紹介されてきた。今までは問題なく治療を受けて来られたのだが、手術後の再発を防ぐには化学療法の実施が必要と説明したところ、本人が抗がん剤は怖くてできないと言っているとのことだった。

診察室に入って来たのは物静かなイメージの女性(和美さん)だった。私は彼女が抗がん剤を恐れている理由を尋ねた。すると、このように答えた。
「私には大した取り柄もない人間です。でも、厳しかった母が唯一ほめてくれたのが私の髪で、和美の髪はきれいだねといつも言ってくれていた。この髪は私の支え。それが無くなってしまうと、私には何にもなくなってしまう…」
私は「なるほど、和美さんが化学療法を恐れる理由がとてもよく理解できました。ただ、髪がなくなるとほんとうに和美さんにはなんにもなくなってしまうのでしょうか?」と応えた。すると、和美さんは少し驚いた表情をした。

カウンセリングの中でわかったことだが、自らをも厳しく律していた母に対して、和美さんは後ろめたい気持ちを持ち続け、無意識に自分を責めてきたのだ。私はその苦しみを想像し、「小さいころから、ほんとうに大変でしたね。でももう自分を許してもいいのではないでしょうか?」と伝えた。和美さんの目から涙があふれ、しばらくして化学療法を受ける決断をされた。

「外見なんてどうでもいい。人は中身が大切なんだ」などと言う人もいる。しかし、このエピソードは、その人の外見はこころの芯につながっていることを教えてくれる。外見のケアはこころのケア、あるいは魂のケアという側面もあるのだろう。

アピアランスケアの変遷

アピアランスケアは徐々にがん医療の重要な一部として認識され、制度化されてきました。
特に2023年の第4期がん対策推進基本計画での明記は、
アピアランスケアの重要性が国レベルで認識されたことを示しています。

2007年

  • がん対策基本法に基づく「がん対策推進基本計画」に、全てのがん患者とその家族の苦痛の軽減と療養生活の質の維持向上が目標のひとつになりました。

2012年

  • 「がん対策推進基本計画」に、がんになっても安心して暮らせる社会の構築が追記されました。
  • 国立がん研究センター中央病院の外見関連支援チームが「アピアランスケア」という用語を提唱し、対外的に使用し始めました。

2013年

  • 国立がん研究センター中央病院にアピアランス支援センターが設置されました。

2014年

  • 山形県を皮切りに、自治体がウィッグや補正具の購入費助成などに踏み切り、この年を境に全国に広がっていきました。

2018年

  • 第3期がん対策推進基本計画に、初めて「アピアランス」の課題が取り上げられ、医療従事者に患者の外見の問題を支援することが求められました。
  • 運転免許証の証明写真に、医療上の理由があれば帽子やウィッグの使用が認められました。
  • がん治療に伴う外見の変化に関する相談ができた患者(成人)の割合は28.3%でした。

2019年

  • 脱毛予防の頭皮冷却装置が認可されました。

2020年

  • 遺伝性乳がんに対する予防的乳房切除術後のエキスパンダー・インプラントを用いた乳房再建術が保険の適用対象になりました。
  • 身体障害者手帳の証明写真に、医療上の理由があれば帽子やウィッグの使用が認められました。

2023年

第4期がん対策推進基本計画で、以下の点が明記されました。

  • 拠点病院等を中心としたアピアランスケアに係る相談支援・情報提供体制の構築が明記されました。
  • アピアランスケアの充実に向けて、国が拠点病院等を中心とした相談支援・情報提供体制の構築について検討することが明記されました。

医療現場での取り組み

アピアランスケアとは

当サイトでは、がん治療にたずさわる医療従事者の皆様の取り組みを取材して掲載してまいります。
例えば、「患者とのコミュニケーションの取り方」「患者の悩みに寄り添うアプローチ方法」「専門家と連携して行うケア方法」など、各病院での具体的な取り組みを随時公開予定です。

よくある質問

アピアランスケアとは

アピアランスケアについて、医療現場や患者様からよく寄せられるご質問についてまとめました。